報文紹介「カブトムシの角が成長するメカニズム」

 
 別の報文の内容を纏めようとしているところで、今回紹介する報文をふと見つけてしまい、目が釘付けになってしまった。それほど、私にとっては衝撃的な内容であった。
 
 その内容は、カブトムシの角(ツノ)形成のメカニズム解明への手掛かりについてである。このテーマは飼育者ならば、多くの方が気になる内容ではないだろうか。
 
 さて、この報文は左隅に「フォトエッセイ」と書いてあった。そのためか、通常の投稿論文ほど、内容が充実している訳ではないが、話題提供としては充分に面白い。また、カブトムシを研究題材に捉え、しっかりと地に足が着いた研究体制を敷いていることが伝わってくる。その報文が下のものである。
 
 
   題名:カブトムシの角(ツノ)形成
   雑誌:比較内分泌学、Vol.36、No.137、pp.163-167
   著者:伊藤祐太、柳沼利信、新美輝幸
   年代:2010
 
 
 この報文は、フォトエッセイの名の通り、写真を多用している。著作権の絡みもあり、そのコピーは避けた。そのため、ここでは図や写真は一切、登場しない。しかしながらこの報文は、Freeで入手できる。したがって、このブログを読んで興味を惹かれた方は、報文の題名をそのままインターネットで検索すれば、電子ファイルが入手可能だ。これは日本語で書かれており、頁数も少ない。また、昆虫以外の生化学的な専門用語は極力避けているような配慮もあり、通常の報文よりは読みやすいのではないだろうか。
 
 では、この報文について私なりに感じたポイントのみを掻い摘んで書く。
 
 
既往研究について
 角形成のメカニズムに関する研究の報告例は少なく、この報文のイントロダクションでの説明では2009年に海外のグループが発表したエンマコガネの研究のみであった。しかし、このグループはその前後、精力的に報文を出しており、私が簡易的な検索を行っても2010年以降に7報が出ている。DNAマイクロアレイを用いて、角に関連する遺伝子について研究しているようだ。したがって、角の伸張についての研究としては、このエンマコガネの研究グループが最先端のグループの一つであるのは間違いない。
 
 
今回の報文の研究結果
 日本のカブトムシを研究題材にして、その雄の角の形成過程を究明するのを目的とし、様々なステージの幼虫を解剖して調査した結果、幼虫が摂食を停止し、蛹室を作る前蛹期に“角原基”が初めて作られ、それが角の基になるようだ。これは雄に特異的なものであり、前蛹期において、角原基は発生が進むにつれ表皮の皺が密(皺が増加)になり、蛹化時に皺が伸長して頭部および前胸部の角が形成される。
 私のイメージでは、前蛹期に角を形成するための“袋か風船”のようなものが皺皺になって折り畳まれるように作られ、蛹化時にはその袋の中に角の基となる成分が流れ込み、角に形成されるのだろうと思う。
 したがい、角の形成には、この前蛹期が最も重要であると思われる。
 
 
今後の方向性について
 この研究グループは、カブトムシの幼虫を用いて、RNA干渉(RNAi)の手法が有効であることを既に確認されており、また幼虫の体全体のin situ ハイブリダイゼイション法も確立している。そのため、ターゲットとなる遺伝子が分れば、その挙動が確認できる体制は既に備わっている。
 あとは、何をターゲットにするかがポイントになるだろう。ある程度、ターゲットを考えているようだが、ここでの説明は省略する。
 
 
(報文の内容とは違うが)他の研究者・飼育者たち
 北大のあるグループでは、クワガタの前蛹期の大あごに幼若ホルモン様物質を塗りつけて、大あごが大きくなったとの話があるようだ。幼若ホルモンは、一言で言えば、若いままにしておく作用があるため、この化学物質により大あごの原基が次のステージに進むのを阻害することにより、“多くの皺”、すなわち“大きい袋”を人工的に作らせているのかも知れない。
 また、ブログにおいても、前蛹から蛹化の時期に温度コントロールされている方もいらっしゃる。これも大あごの原基の皺を如何に多くするかを工夫されていると考えれば、辻褄が合うのではないか。
 
 
 さて、私は気まま流なので、こんなことを調べても飼育方法を改善するつもりはなく、今までどおり、適当に飼育を続けることにする。