報文紹介「クワガタ幼虫の使用済みマットにおける窒素固定」

 先日の報文紹介で、クワガタ幼虫の腸内細菌が窒素固定する“可能性”があることを説明した。なお、この試験系はアセチレン還元法を用いたものであり、直接的に窒素固定を実証していない、いわゆる間接的な手法であるために、“可能性”という表現になっている。今回はそれの続報にあたり、著者も同じである。
 その報文は下記であり、とある学会発表を経て、つい最近、雑誌に掲載されたものである。
 
   題名 :クワガタムシにおける空中窒素固定能とその意義
   著書 :蔵之内利和、望月淳、小島啓史
   雑誌 :昆虫と自然、Vol.45 No.10、pp.31-33
   年代 :2010
 
  
なお、この報文は、前述の紹介を書いているときには、その存在を気づいておらず、そのコメントのやり取りしている中で、“クワガタ”、“窒素固定”で検索して分ったものである。
 
 この実験内容は、いたってシンプルである。すなわち、ヒラタクワガタ幼虫飼育で使用済みのマットをビニール袋に空気と共に詰めておくと、空気中の窒素が消費(固定化)され、袋が縮むというものだ。
 比較対照として、使用前のマットでは袋は縮まないことから、クワガタ幼虫の飼育によって、排出された糞の中に、窒素固定菌が存在することを示唆しているというものだ。その経時的な変化の結果は下図だ。
 
イメージ 1
 
 この結果により、クワガタ幼虫の腸内細菌の中には、窒素固定能を持つものがいる可能性がさらに強く示唆された。使用したクワガタは2報間では異なっている。アセチレン還元法を用いた時はコクワガタであり、今回はヒラタクワガタだ。まあ、それくらいの違いは、本質的には関係ないと思われる。
 
 ところで、私にとって残念な点があった。使用済みマットは、窒素固定反応の持続性がどこまであるのか言及されていないし、実験されてもいない。あくまでも、実験した期間(2週間)内において窒素固定が確認されたのみだ。
 
 クワガタ飼育者としては、使用済みマットの窒素固定能は、永続的、もしくは少なくとも半年くらい維持されるのかは、たいへん興味があるところではないだろうか。
 
 もし窒素固定菌がクワガタの腸内から糞として体外に出た後もある程度活性を維持できるのであれば、いろんな工夫ができると思う。
 例えば、①発酵マット作製時に使用済みマットを添加物として加える、②産卵木を水に漬ける際には使用済みマットを加える、③産卵木をセットする前に木に使用済みマットをなすりつけ細菌を付着させる、といった方法が考えられそうだ。
 また、発酵マットに限らず、廃菌床でも代用は可能と思われる。また、良好な個体が出た使用済みマットや菌床を用いれば、なお一層効果的かも知れない。
 
 ただ誤解の無いように書いておく。マットにおける窒素固定菌の活躍は微々たるものであり、この報文でも後半に書かれていたように、窒素比を増やすには、マット中の炭素分を分解して無機化(CO2)する方が効果的である。あくまでも窒素固定菌は補助的なものと考えた方がよかろう。
 
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