報文紹介「アセチレン還元法を用いた生物的窒素固定能の測定について」

 先日のブログでクワガタの腸内細菌による窒素固定について説明した。そこでは、窒素固定能の測定として、アセチレン還元法を用いていた。窒素固定とアセチレン還元との関係がよく分からなかったので、もう少し調べたのでここで説明する。改めて書くが、不明な点があっても原則、孫引きをしないのが、私の手抜きルールだ。
 
 もともとはこの点を明らかにするつもりはなかった。ふと目に飛び込んできて、つい内容を読んでしまった。間違いなく一週間後にはエッセンスを忘れてしまっているだろうから、今のうちに備忘録として刻み込んだに過ぎない。
 
ここで紹介する報文は下のもので日本語だ。非常に有り難い。
 
題名:生物的窒素固定能の測定―アセチレン還元法とその問題点―
著者:松口竜彦(農林省農業技術研究所)
雑誌:化学と生物,
Vol.16, No.5, pp.328-335
年代:1978
 
まずは窒素固定速度の測定の歴史を説明する。初めはキュルダール(kjeldahl)法、次に15Nトレーサー法が利用され、その後、アセチレン還元法へと主役が代わっていったようだ。
そこでそれぞれの方法を簡単に説明する。
 
キュルダール法は、ケルダール法と書いた方がピンとくる人が多いのではないか。これは、試料中のケルダール態窒素(アミノ態窒素とアンモニア)を測定する方法である。より具体的な手順について興味のある方はケルダール法として検索してもらいたい。これには問題点があった。①分析感度が低い、②窒素固定とその反対の反応である脱窒(窒素N2への変換)が通常同時に起こるため、脱窒分を差し引いた量しか窒素固定速度が測定できない。
 
15Nトレーサー法は、文字通り窒素の同位体を利用して、取り込まれた同位体量を測定する方法だ。これにより、キュルダール法よりは感度が向上したものの、脱窒分による窒素態の消失の問題は解決していない。なお、この方法でも感度が悪いと書かれている。どうやら、発光分光分析法を用いているためと思われる。現在では、例えば液体シンチレーションカウンターやバイオイメージングアナライザーを用いればより高感度になると思われる。
キュルダール法や15Nトレーサー法は、窒素固定速度を求めようとしているため、脱窒による窒素消失を問題視しているが、クワガタの発酵マット中での大気中の窒素の利用を定量的に調べるのは、これらの方法で問題ないと個人的には思う。
 
その次として、感度および脱窒の問題を解消したのがアセチレン還元法となる。原理は、気体窒素(N≡N)は三重結合があり、変化されにくいため、特殊なニトロゲナーゼという酵素がその変化(分解)の役割を果たしている。同様にアセチレン(CH≡CH)にも三重結合があり、これも自然界では難分解性物質と見なされ、分解されにくいのだ。このアセチレンは窒素と同じニトロゲナーゼで還元されることから、ニトロゲナーゼ活性をアセチレンを用いて測定している。この方法だと脱窒反応があっても窒素固定速度測定に影響しないことになる。しかし、根本的な問題としては、あくまでもニトロゲナーゼ活性を間接的に測定しているのであって、窒素の変化速度をダイレクトに測定している訳ではないので、結果として間接測定法となってしまう。したがい、先日の報文ではアセチレン還元活性をもって、窒素固定能ありとまで断言していないのだ。なおこの測定方法としては、通常はガスクロマトグラフィーで検出器はFIDで測定される。検出器FIDの感度はせいぜい1ppmなので、この程度で高感度とは時代の古さを感じる。現在は、GC-MSを利用すれば、遥かに高感度(ppbオーダー)で測定できるはずだ。
 
この文献は、さらにアセチレン還元法の測定方法のノウハウが書かれているが、クワガタ飼育のための発酵マット作製に関する好奇心からは大きく離れるので、説明はここまでとしておく。
 
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