報文紹介「クワガタ幼虫の窒素固定について」

 
 ここで新たなシリーズものを始める。といっても、実はブログ開設当初から書庫として、“書籍・文献”としていたのはこのためだ。単に報文(文献)紹介をサボっていたに過ぎない。
 この報文紹介には簡単なルールがある。本来あるべき報文紹介とは、ある報文を紹介するにあたり、不明な点などは孫引きして、それらの知見も補強して説明するものだ。しかし、私は単なる普通のサラリーマンなので、格調は下げて、孫引きは省略させて頂く。
 
なお今回紹介する報文は、ブログ開設当初から温めていたものではなく、つい先週見つけたのだ。自分としてはhotな話題であるが、発表は2006年とやや古い。ベテランブリーダーにとっては当たり前のことかも知れないが、私には衝撃的な内容であったため、ここに紹介する。
報文は次のものだ。
 
Title : Nitrogen fixation in the stag beetle, Dorcus (Macrodorcus) rectus (Motschulsky) (Col., Lucanidae)
Author : Kuranouch T., Nakamura T., Shimamura S., Kojima H., Goka K., Okabe K. and Mochizuki A.
Journal : Journal of Applied Entomology, 130 (9-10), 471-472
Year : 2006
 
 発酵マットに関してブログを書いた際のコメント欄での質問には、発酵マット作製過程において、空気中の窒素を微生物が利用しないのか?との質問を受けた。そして、特殊な微生物がすることであり、発酵マット作製過程の微生物は空気中の窒素は利用しないと答えた。それは今でも正しいと思っている。
しかし発酵マットではないが、思わぬところで、空気中の窒素をクワガタが取り込んでいる可能性があることが分かった。この報文がそれである。単なる2頁だけだ。ただし、著者は豪華絢爛である。五箇公一氏や小島啓史氏が名を連ねている。
 
そのトピックは次の通りだ。
 
・diazotrophic(ジアゾ基(N2=)を栄養とするよう)な微生物によって、大気中の窒素が固定され(取り込まれ)る。この微生物は海洋や土壌に存在する。
・その微生物は単独で存在したり、マメ科の植物など高等生物と共生したりしている。
・昆虫においても、窒素固定の証拠としてアセチレン(CH≡CH)の還元活性から、シロアリ、キクイムシ、材食ゴキブリ、コガネムシやショウジョウバエで発見されている。
・そこでコクワガタの幼虫を用いて、上記の昆虫と同様に、幼虫と木屑の中にアセチレンを混入させた試験系で、アセチレンからエチレン(CH2=CH2)に還元する反応を確認した。測定方法は簡単だ。単にガスクロマトグラフィー(検出器:FID)で経時的にアセチレンおよびエチレンガスの濃度を測定するのみだ。
    このクワガタ幼虫によるアセチレン還元反応が認められたことにより、クワガタの腸内細菌の中に窒素固定する微生物の可能性が示唆された。
・なお、Negative controlとしては、木屑のみの試験区や、高温高圧処理で幼虫を殺傷した試験で確認はしている。
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といった具合だ。なお、この「アセチレン還元反応 = 窒素固定反応」がどれほどの関係性があるのかは孫引きしないと私には分からない(恐らく、窒素固定の酵素の働きが、アセチレンを還元する能力を持っているのではないかと推測するが)。報文でも窒素固定は事実として断定しているのではなく、可能性を挙げている(mayの単語を使用)だけなのだ。したがい、さらに別の試験系で窒素固定を確認しないと断定できないのだと私は理解することにした。
 
クワガタは、餌のマットや菌床からのみ、蛋白源の窒素を得ているものと思っていたが、幼虫は空気中の窒素を腸内細菌の働きを借りて利用できる仕組みとなっている可能性があることは非常に興味深い知見だ。だからと言って、私のクワガタ飼育方法に変化がある訳ではない。
 
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