発酵マットとは

 
クワガタの幼虫飼育方法ところで書いたとおり、発酵マットと言う言葉は気に食わない。
その理由を説明するには、まず発酵マットについて説明する必要がある。
そのため発酵マットとは何かをここで記載する。

なお、単なる作製方法を書いていたら、どこのホームページにも載っている内容と何ら変わらない退屈な内容になってしまうだろうから、科学的なテイストも少しまぶしておく。
ただし、先に言っておく。私は発酵マットの専門家でも研究者でもない。
科学的な記述はあくまでも推測が含まれており、また誤解している箇所があるかも知れない。当然、この記事の信頼性のCodeは4である。
 
さて、一般的に発酵マットと言われているものは、次のように作製されるものと思われる。
まずは原料の話から。

シイタケ栽培は、通常はクヌギの原木に穴を開け、そこにシイタケ菌を埋め込む。
シイタケ菌は、白色腐朽菌の一種であり、木質成分のセルロース、ヘミセルロースとともにリグニンを分解する。
このリグニンは自然界ではなかなか分解されにくいものであり、木造建築の構造物が長持ちするのも、このリグニンによるものが大きい。
このリグニンはベンゼン環を内包しているため、材木の色が茶色いのはこのせいだ。
そして、シイタケ栽培に利用できなくなるほど木が朽ちた頃には、木質中のリグニンが分解されて、中身が白くなっていく。これが白色腐朽菌による木の腐朽の特徴である。この朽ちた木は、廃ほだ木と呼ばれる。
この廃ほだ木を粉砕したものが、発酵マットの原料となるマットである。
このマットは、元素として炭素(C)の割合が極端に高い。
生物は、炭素以外にも窒素(N)、リン(P)など、さまざまな元素から構成されている。
したがい、このマットはクワガタの幼虫にとって、栄養バランスの取れた高栄養食品ではないのだ。
そこで栄養価を高めるために、添加物(小麦粉が一般的)をマットに加えて、これらを発酵させたのが発酵マットと呼ばれるものである。
この発酵過程では、添加物の有機分は微生物などによって分解され、一部は二酸化炭素(CO2)となって、マットから消失するため、発酵マット中の窒素やリンの比率は、発酵前のものや、廃ほだ木のそれよりも高くなる。
この窒素分は、アミノ酸に必須な元素であり、クワガタの幼虫にとっては蛋白質を構成するためになくてはならないものなのだ。
では、添加物をたくさん加えると、いい発酵マットができるのであろうか。
いや違う。
添加物を多く入れすぎると、微生物が添加物を分解する過程で酸素が極端に不足し、嫌気性分解が分解の主な反応になってしまう。
失敗作の発酵マットは腐乱臭がするのは、この嫌気性分解によって生じた硫化水素(H2S)によるものである。
また、漬物の糠床のような臭いがするのは乳酸発酵が起こっている証拠である。
この乳酸発酵のレベルであれば、きっと問題はないだろうと思うが、さらに発酵を進めて乳酸を分解させ、マットが酸性状態にならないように注意することが肝要かと思う。
また発酵マットによっては、ガス抜きを推奨しているものがある。
これは発酵マットの保管中に、さらに発酵が進み、アンモニア(NH3)が発生しているものと思われる。
うんこのような臭いもあれば、アンモニア+硫化水素の発生の可能性が推測される。これらのガスは生体に悪影響を及ぼすため、発酵マットを使用する前にはやはり揮散させる必要がある。
しかし、ガス抜きして、ほっとしている場合ではない。
これらのガスが発生しているということは、高栄養の発酵マットから栄養分が抜けて行っていることを意味するのだ。
また、添加物を多く加えるために複数回に分けて添加することもある。
すなわち、発酵マットに添加物を加えて、発酵させたものが二次発酵マットである。
これを繰り返せば、三次、四次もあるかも知れない。
しかし、高栄養過ぎるのも問題があるだろうから、今のところは三次のものまでしか、見たことはない。
また、高栄養なものはマットとしての安定性が低いかも知れない。
発酵過程を微生物の側面から見ると、まず発酵直後ではマットは室温レベルであり、常温菌と呼ばれる微生物群が発酵に寄与する。
そして、発酵によって熱が発生して温度が高くなると、中温菌(至適温度は40~50℃程度)が次に活躍する。
それ以外にも高温菌(至適温度は60~70℃程度)も存在するが、発酵マットの微生物群として、この高温菌が寄与しているかは不明である。
発酵過程でも、このように微生物の変遷があり、次第にマット自体は分解されにくいものが蓄積し、温度が室温まで低下していけば、発酵は完了とみなされる。
これで発酵マットの出来上がりである。
なお、朽木を好むクワガタと根食い系と言われるクワガタでは、発酵度合いに好みがあり、根食い系ほど発酵を長引かせるとよい。
 
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