昨日、海外にいるはずの
友人のKが日本に戻っているという話を聞きました。
理由は手術のため。

大学時代からバカやってきた古い付き合いですが、
ここ最近は両方とも忙しくしており、
もう2年近く会っていませんでした。

何か胸騒ぎがして、入院先の病院を聞き出し、
半休をとって、お見舞いに行ってきました。

病室に入ると、ベッドの上で
雑誌を読んでいるK。

僕に気づくと、少し驚いた顔をしていました。

K:「おお!どうした?こんな時間に」

Char:「いや、ちょっとな」


何か少し気恥ずかしくて、ベッドの彼から
少し離れて、壁によりかかるように座りました。


K:「驚いたな。仕事は?」


Char:「暇だったから半休とったよ。最近、休んでなかったしな。」


K:「相変わらず、商社マンやってんのか?
  大変だねぇ。世界を股にかけるってやつだ?」


Char:「からかうなって。でも8年やってると、染み付いてきてな。
    もう、他の仕事はできそうにない。」


K:「俺らも、もう30だ。 いいんじゃない?それでさ。」


Char:「お前の方こそ、仕事はうまくいってんのかよ?
    いいのか?こんなとこで休んでて。」


K:「俺はちょっと働きすぎたからな。。
   しばらく休憩だわ。」


K:「土産は?」

Char:「悪い。忘れた。」

K:「だろうな(笑)」



Char:「どうだ? 母校に入院する感じは?
    学生に戻った感じだったりしてな。」


K:「馬鹿いえ。
  自分が卒業した学校の医学部に入院するってのは
  どうも、信用ならない(笑) 
  後輩に手術されるのだけは勘弁だな。」


Char:「なるほどな(笑)」


彼の病名。
僕は聞かされていません。

重い病気ということしか。


病名を聞いてしまうと、
彼が、凄く遠くへ行ってしまう気がして。

しばらく、沈黙が病室を包みました。


K:「ところで、Yちゃんとは、うまくいってんのか?
  もう愛想つかされたか?」


Char:「そうだな(笑) もうとっくに終わったよ。」


K:「ホントか?嘘だろ? 原因は?」


Char:「今さらだけど、すれ違いばかりだった。
    やっぱり、ちゃんと顔を合わせないとダメだな。」


K:「当たり前だろ。そんなの。  はぁ~。」



Char:「一人身も楽しいもんだぜ。 今は気楽だしな。」


K:「まあな。 別にお前のことだ。心配はしてねーよ。
  そういう俺も今は一人だ。
  おかげで、気楽なこと、この上ない。」


Char:「じゃあ、手術が終わって退院したら、合コンだな。
    クリスマスあたりでいいか?」


K:「多分な(笑)」



Char:「・・・」



K:「そんな顔すんな。すぐに良くなる。
   お前の方が病人になっちまうぞ。」



Char:「みんな、、知ってるのか? 入院していること」


K:「誰にも言ってないよ。元彼女には言ったかな(笑)」


Char:「何で言わねーんだよ。」


K:「言いたくなかったからさ。
   特にお前にはな。」


Char:「・・・」


K:「お前は、、、死に対して敏感だろ?  9年前のあの夜以来。
   変な心配させても、仕方ないだろう。」



Char:「でも、言ってくれてもいいだろう。
    お前が死ぬなんて、これっぽっちも思ってないけど、
    知ってたら、いろいろ話せる事だってある。
    こういう風に。
    明日だって、また会社休んで、話そうと思えば、話せるんだ。
    万が一、何かあったとして、事後に知らされるなんて、悲しすぎるだろう。
    みんな、知ったら後悔する。」



K:「そうか。 そんなもんか。」



Char:「・・わからないけど。 俺はそう思う。
    俺は・・・ずっと後悔してる。」



Kは、窓の外を見ながら
黙ってしまいました。




Char:「じゃあ、そろそろ会社行くわ。」


K:「おう。 手術が終わったら、また来いよ。」

窓を向いたままのK。


Char:「手術の前に来るさ。」





大学病院のキャンパスの正門を出るとき、
大きく深呼吸をして
もう一度、Kの病棟を振り返りました。

薄暗い病室に、
オレンジ色のやわらかい光が差し込み、
その光の中に、浮かんでいたKのシルエットが
心に残像のように、残っています。


銀杏の黄に染まった風景。

行き交う医学生。

間の抜けたような、東京の青い空。


Kが、あの窓から見ていたものが
何だったかを
僕は知る由もありませんが、


彼を信じて、元気に戻ってくるのを
待とうと思います。


窓の先に、

彼が「明日」を見ていてくれていることを信じて。