キャノンのデミEE17です。

 

 

この個体は摩訶不思議な症状が発生してしまい、その原因が皆目見当がつかなかったために修理不能と判断されてジャンクの部品取りとして保管されていたものです。

 

 

その摩訶不思議な症状というのが『1/250秒だけがシャッターが閉じずB開放と同じ動作をする』というものです。

上の動画のように1/125秒と1/500秒はちゃんと開閉するのに1/250秒だけ開き放しになってしまいシャッターボタンから指を離すとシャッターが閉じます。
残りのB~1/60秒のシャッタースピードは正しく動作しています。
 
例えば…。
B開放の動作が悪い
スローシャッター領域での動作が悪い
それ以外(高速)の領域での動作が悪い
全域において動作が悪い
 
というのであればまだ原因の予測は出来そうなのですが、
1/250秒のみというピンポイントになると非常に難しいというよりも謎です。
ですから基本の構造を理解する事から始めます。
 
 
ではシャッタースピードはどのように変速をコントロールしているのでしょうか?
上の画像はシャッタースピードリング単体です。
赤い線と黄色い線で囲まれた二カ所のウネウネした形状の溝の部分で変速をコントロールしています。
 
 
この二カ所の部分の動きを視認できるように鏡胴リングを取り付けずにシャッタースピードリングだけを本体に取り付けて菊ナットで固定します。
そして1/250秒の状態とB開放状態のような症状になるのでB開放時の状態、それと1/250秒の前後となる1/125秒と1/500秒の状態を視認・確認して比較していきます。
 
 
各速度に設定した時の矢印の二つのピン(爪)の位置や状態をチェックしていきます。
 
 
まずB開放時のシャッターをチャージした時の状態です。
赤矢印のピンがウネウネした溝のこの位置にあります。
 
 
シャッターを押した状態にすると黄矢印の爪が深めの溝の窪んだ部分に喰い込むように移動しています。
 
 
次に1/125秒です。
赤矢印のピンはウネウネ溝のこの位置に来ます。
 
 
シャッターを押した状態です。
黄矢印の爪は外周にブロックされて浅めの溝の窪みに喰い込むことができていません。

 
そして問題の1/250秒です。
赤矢印のピンはウネウネ溝のこの位置に来ました。
 
 
シャッターを押した状態です。
黄矢印の爪が浅めの溝の窪みに喰い込んでいます。
 
 
最後に1/500秒です。
赤矢印のピンはウネウネ溝のこの位置に来ました。
赤矢印のピンはウネウネ溝に沿って上下する事で変速をコントロールしています。
回転方向の位置も変化しているように見えますが実はシャッタースピードリングが回転しているだけでピンは動いていません。
従って赤矢印のピンの位置は1/250秒と全く同じという事になります。
 
 
シャッターを押した状態です。
黄矢印の爪が1/125秒と同じように外周にブロックされ浅めの溝の窪みに喰い込むことができていません。
 
以上をまとめると…。
赤矢印のピンは1/500秒でも1/250秒でも同じ位置なのに1/500秒では開放にならず正常に作動しているので赤矢印のピンが摩訶不思議な症状の原因に繋がるとは考えいにくいと思われます。
そしてB開放と1/250秒の時は黄矢印の爪が溝に喰い込む。
1/500秒,1/250秒,1/125秒では喰い込んでいない。更に1/125秒は正常に動作している。
このことから
B開放で黄矢印の爪が溝に深く喰い込んでいることから黄矢印の爪が溝に喰い込むのはシャッターの開放に関連する。
と推測されます。
この推測が正しければ『1/250秒の状態で黄矢印の爪が溝に喰い込み過ぎている』
のが原因ではないかと思われます。
 
 
ということは、
矢印の部分をほんの少し外周にむけて曲げてやればよいという事になるのですが
果たして…。
 

 
あっさりと治ってしまいました!
シャッタースピードが速すぎてなかなか動画に反映できなかったので反対側からライトを当てて撮影しました。
ただ…。
それなりに強度がある金属が本当に曲がってしまったのでしょうか?
ひょっとしたら他に真の原因があってこの修理方法は対処療法なのかもしれません。
ですが実はこの修理は今回が二回目になります。
記事にはしなかったのですがもう一台のキャノンデミEE17を修理していました。
その後のテスト撮影の結果も素晴らしかったので出品しようと各部を撮影しながら動作確認をしたらば今回と同じ「1/250秒だけ動作不良」という症状が発生しました。
テスト撮影まで終わらせているのにジャンク扱いのするのはあまりにも悲しいために必死に原因究明して対処して復活させることに成功しました。
「ひょっとしたらこのトラブルは記事にできるのでは?」と閃きまして同じ症状を持った個体を探し出して同じ課程・工程で修理したのが今回の記事です。
二回とも同じ原因と思われ同じ方法で復活しましたのでこれで良かったのではないかと思います。
いくら様々なトラブルを克服しても今回のように更に斜め上をいく摩訶不思議なトラブルというか新たな課題を与えられてしまうので終点が見えません。
ギブアップした時が終わりなのでしょう。
やはり製造から50年以上経過した機械はしかたないんですよねぇ。