キャノンの7S レンジファインダーカメラです。
キャノン7の露出計をセレン式からcds受光素子に変更したキャノンのレンジファインダーカメラの最終形態です。
以下で説明する通り巻きもし方式で画像を掲載しているために上下の二重画像合致させる調整をしているために分解中&レンズ装着状態となっております。
キャノネットQL17のような普通のレンジファインダーカメラとは違ってレンズ交換式になっていてレンズの長さに応じてブライトフレームの大きさが変わるというライカのようなカメラです。
このカメラは数カ月前までは正常に動作していたのですが、10日くらい前に動作確認をしたらシャッタースピードが1~1/8秒でシャッターが開いても閉じなくなってしまいました。
「こりゃぁスローガバナが原因だろう」ということで分解してみることにしました。
しかし、
私はこのタイプのレンジファインダーカメラというのを今まで分解したことが無いどころか構造や使い方も全く理解していませんでした。
このため分解する必要のない所まで分解してしまったり、歯車の合わせ位置が判らなくなってしまったり、軍艦の外し方を間違えてしまい部品の一部を変形させてしまう等の失敗を繰り返してしまいました。
このため分解時に撮影するという精神的余裕が全くありませんでした。今回は組立時に撮影した画像を逆の順序にして分解の説明をしていくという巻き戻し方式となりますので分解時の説明と共に組立時の苦労譚そして特記するべき事柄や私がミスした事柄も説明していきたいと思います。
まずはフィルム巻上げレバーと巻き戻しレバーを外します。
これらは他の普通のカメラと同じ方法で外せます。
ですが巻き戻しレバーの裏側にあるスプリングの役目をする板が錆びています。
錆を可能な限り除去するためにCRC3-36に漬け込みます。
一晩漬け込みましたが錆は全く取れませんでした。
耐水ペーパーで錆を除去しようとしたのですが、地金の表面だけでなく奥まで喰い込んでいたためワイヤーブラシをボール盤に取り付けて錆を除去します。
錆が喰い込んだ痕は残りましたが錆自体は除去できました。
見た目が大分良くなりました。
さて、これ以降は私にとって未知の部分が出てきそうなのでネットで他の方がキャノン7Sを分解されているのを参考にさせていただこうと思ったのですがキャノン7Sの分解の記事を発見する事が出来ず、キャノン7の記事しか出てきませんでした。
仕方がないのでキャノン7の記事を参考にさせていただいて分解していきます。
大体というか殆どが双方のカメラの構造は同じなので参考になると思うのですが、露出機構が全く違うのでその辺の分解が心配ではありますが。。。
ネットの記事によりますとシャッターボタンは側面にある三本のイモネジを緩めることによって外せます。
あと、ボタン横の「A」と刻印されている右側の「黒い点」が撮影時の通常の位置で、左側の「赤い点」がシャッターロックになります。
「R」にすると巻き上げていたシャッターが元に戻ってしまいます。何のためにあるんでしょう?
シャッタースピードダイアルはまずシャッタースピードを「B」にASA感度を400にセットします。
これはシャッター同様側面にある三本のネジにアクセスするためです。
そして1秒と1/2秒の間にあるイモネジだけ緩めて抜き取ります。
組立時に三個の穴のうちどの穴が抜き取ったネジの穴なのか判らなくなってしまいとても煩わしいのでペイントマーカーでマークしておきます。
この一カ所だけネジが長くなっています。
残りの二本のイモネジは短いです。
しかし緩めすぎると内蔵されているASAダイアルに干渉してしまいシャッターダイアルが抜けなくなってしまうので数回転手度の緩めに留めておきます。
シャッターダイアルを抜き取るとASAダイアルが出てきますのでこれも抜き取ります。
ここで最初のミスをしてしまいます。
ASAダイアルの下部は歯車になっていました。
それが露出計の歯車と噛み合っていたのですが、なんとコレがシャッタースピードのように各速度で固定されるような構造になっておらず自由に動いてしまうのです!
このように完全フリー状態となっているのを知らずに外してしまったために、組立時はどの位置でセットをすれば良いのか判らくなってしまいました。
いやぁ~、これには流石に狼狽してしまいました。
初めて分解する機種でやってしまう典型的なミスです。
正しい位置をどうやって見つける(確認する)か?
という事でYouTubeでキャノン7Sを紹介している動画を観まくってASA400の状態のシャッターダイアルが写っている動画を探しました。
そうしたらASA400で1/30秒で映っている動画を発見!
その状態で露出計の数値は画像の通りでした。
それに倣ってシャッターダイアルを仮組します。
そしてシャッターダイアルを「B」にした時の露出計の数値はご覧の通りです。
これで組上げることができるようになりました。
いよいよ軍艦を外すことになります。
軍艦は左側面のネジ一本と
右側面のストロボ接点を緩めて外します。
キャノン7にはストロボ接点にカニ目スパナ用の穴が開いているのに
この個体にはその穴が開いていないため緩めることができません。
ネットでキャノン7Sの画像を見るとキャノン7Sにもストロボ接点に穴が開いているタイプもありました。
ということでヤシカハーフ14の無限遠調整の時と同様にピンバイスで穴を開けます。
画像は下穴を開けている状態です。
最終的には0.8mmの穴を開けました。
軍艦に付いている露出計受光部の窓にはダイアルがあります。
H(橙色)とL(白色)の位置があります。
画像はHL双方が見えるようにダイアルを中間の位置にしています。
なお、軍艦を外す時はこのダイアルをLに設定してから外してください。
私はHに設定して外そうとしたために受光部のシャッターを傷つけてしまいました。
ネットで入手したキャノン7の分解方法ではセレン式の露出計なので構造が違うためこの部分の情報を入手する事が出来ませんでした。
H(橙色)とL(白色)で色が違うのは露出計のメーターの表記と関係があります。
露出計の受光部の窓をHにした場合は橙色の数値を、Lにした場合は白色の数値を見なさいと言う意味になります。
Hの時は画像のようにシャッターが左に移動して受光部の窓が前回になります。
Lの時はシャッターが受光部を覆ってしまい光量を制限します。
この動作を軍艦に付いた受光部のダイアルで操作しています。
このためダイアルをHの位置にして軍艦を外そうとするとダイアルの爪がシャッターに引っ掛かってしまい軍艦が外れません。
それでも無理に軍艦を外そうとするとこのシャッターを破損してしまいます。
私はダイアルを軍艦から取り外してしまえば軍艦から外れるのではないかと勘違いしてしまい三本のイモネジを緩めてダイアルを外してしまったのですが、その必要は全くありませんでした。
しかもダイアル裏面にはH/Lの位置決め用のクリックボールが入っていたのですが紛失してしまいました。
在庫の1.5mmのスチールボールを使ってみたのですが、それでは大きすぎたので1.3mmのスチールボールを新たに購入しました。
結局ダイアルを外したお陰でシャッターは破損こそしなかったのですが変形してしまい、ダイアルをLからHに動かした後にダイアルをHからLに戻してもシャッターが動かなくなってしまいました。つまり一度シャッターを開いたら二度と閉じなくなってしまうということです。
このため小型プライヤーとヤットコを駆使してシャッターの変形を修正してなんとかシャッターがスムーズに開閉るようになりましたがこの対応に三日という時間を割くことになってしまいました。
軍艦取付時に露出計に繋がる電線を挟み込んでしまい外側のビニールの被覆が削れてしまい芯線が剥き出しになってしまいました。
そのままでは芯線とボディが接触して短絡(ショート)してしまう可能性があります。
画像の下側の電線の異様に膨れた部分がそうです。
画像は修復後の物です。
液体ゴムというのがありましてこれが今回のようなトラブルの際の修復にとても便利なんです。
水性なんですが乾くとゴムのようなビニールのようなものになります。
ですから芯線が剥き出しになった部分に液体ゴムを塗り付けて乾かすと先程の画像のようになります。
とてつもない苦労の末やっとこさ軍艦が外れたので
次は前面のカバーを外します。
その前段階としてタイマーのレバーを外します。
レバー自体は他のカメラと同じなのですが…。
今まで触れてきたカメラはタイマーのレバーを外せばそれで終わりなのですが、
レバーの下に三本のネジが隠れていました。
当初はカバーに取り付いているのだろうと思いこの状態で放置していたのですが、後にここも分解しないとカバーが外れない事が判明し外します。
三本のネジなのですが、下のネジと上の二本のネジでは色も形状も違います。
とても複雑です。
ここまで複雑な理由は何なのでしょうか。
白い部分を取り外すとシャフトが出てきます。
シャフトは画像のような形状をしていて
すき間調整用と思われるシムワッシャーが二枚入っていました。
シャフトを外すと更に溝の彫られたピンのような物が出てきます。
このピンには二つの溝が90度の位相で彫られています。
たかがタイマーとの連携でなんでここまで部品数が多くて複雑なんだろうかと思わされました。
レンズマウントを取り付けている四本のネジを外します。
上側と下側でネジの長さが違います。
長い方が上側用です。
マウントを外すと更に二本のネジが出てくるので緩めて外します。
(巻き戻し方式のため時系列が逆転しているためこの時点ではまだタイマーの取り外しが行われていません。この後取り外すことになります。)
全てのネジが外れるとこのようにカバーがカパッ!と外れます。
矢印の部分がスローガバナです。
この部分にベンジン(特級)を流し込みます。
シャッタースピード1~1/8秒が復活しました。
モルトの貼り替えをします。
このカメラは構造的にボディとカバーの間にもモルトが貼られているのでこちらも張り替えます。
本来はボディ側に貼り付けるのかもしれませんが私はカバー側に貼り付けました。
あと四角い窓の下の部分に植毛紙が貼られていますがこれは再利用します。
軍艦のファインダー部にもモルトを貼ります。
軍艦のレンジファインダー用の窓の黒い部分が剥がれているので塗料で塗って
彫刻刀とカッターで形状を修正しました。
ですが何回か軍艦を付けたり外したりしていたら塗装がポロポロと剥がれてしまいます。
三回ほど塗り直したら収集が付かなくなってしまいました。
仕方がないのでマスキングテープを使って直線を出すようにしてから
塗料の密着性を上げるためにガイアノーツのプライマーを下塗りしてから黒の塗装を
してようやくなんとか見られるようになりました。
ASAダイアルと露出計の数値を合わせて歯車をかみ合わせてからシャッタースピードダイアルを三本のイモネジで取り付けます。
ASAダイアルと露出計の数値の関係が正しいかどうか後ほど検証・確認します。
シャッターボタンを三本のイモネジで取り付けました。
巻上げレバーと巻き戻しレバーを取り付けて完成です。
本体のASAを400 & 1/250秒にセットしてボディに電池を入れて露出計のスイッチをONにして数値を読み取ります。
画像では見えないですが本体の露出計の指針のF値はF4から小さい目盛りで1つくらいF5.6寄りにあります。
セコニックL-188露出計もASA400にセットしてあるので黒い数字(シャッタースピード)の250の位置に合致している赤い文字(F値)を読み取ると4より一目盛り程5.6寄りになっているので本体とほぼ同じ数値を示しているので合っています。
という事は組立時の歯車の合わせは正しかったという事になります。
ようやく完成し、露出計も正しく動いているようなので最後にレンズを取り付けて
ブライトフレームと二重画像の動きをチェックしたところ、二重画像の縦方向がズレていました。
二重画像の調整は軍艦に付いている盲(めくら)蓋役のネジを外してその穴からマイナスドライバーを挿入してネジを左右に回して行います。
ファインダー窓横にあるこの穴が左右の調整用です。
そしてブライトフレーム設定ダイアルの上にあるのが上下の調整用の穴です。
しかし両方の穴にドライバーを挿し込んでもネジらしきものに到達できません!
もうどうにもならないので組上げたばかりの軍艦を再び取り外しました。
そして精査してみると左右の調整ネジは穴の直近に見つかったのですが、上下の調整ネジは穴の直近にはありませんでした。それらしいネジは存在するのですが、強力な接着剤で固定されておりとても調整用のネジとは思えません。
ネットでひとつ前の型のキャノン7の画像を見ると矢印の位置に盲蓋があります。
また、ネットでキャノン7Sの画像を見るとこの個体と同じ位置に盲蓋が有るタイプとキャノン7と同じ位置に盲蓋のあるタイプがあります。
そしてキャノン7の穴の位置にには矢印のような上下調整用と思しきネジがありましたがこれも調整用ではありませんでした。
ミラー固定用のネジのようです。
上下の調整ネジは無いのでしょうか?
私には見つけることができませんでした。
万事休す。
もはや修理不能と判断し組立を止めてしまいました。
しかし一晩経ってから『だったらミラーが付いている土台を力技で曲げてしまえば良いのでは?』と思い付き、最悪ミラーを破壊する覚悟でやってみることにしました。
何度も繰り返していくうちに段々と誤差が減ってきたのですが、あるところでミラーが土台から剥がれてしまいました。
そこで硬化が始まるまでに90分かかるタイプのエポキシ接着剤を使ってミラーを土台に貼り付けることにしました。
接着剤は土台の上側を厚めに塗り、下側を薄めもしくは塗らない程度にして多少は角度が付くようにしておきます。
そして硬化が始まる90分の間にミラーを極細のドライバーを使って微細に動かして二重画像の上下&左右が合致する位置を見つけ出しました。
しかし硬化が始まる前までは例えベストの位置が見つかっても再びズレてしまう可能性があります。
さらに硬化中や硬化後の接着剤の収縮等で位置がズレる可能性もあります。
ですのでミラーを貼り付けてから3時間ぐらいまでの間は30分毎にズレていないかどうかを確認します。
現在のところ二重画像のズレは発生していないので効果が安定するまでこのまま一晩放置します。
ミラーがズレないようにするため、これ以上カメラに触れないので今回はここまでとなります。