ヤシカのハーフ 17です。
このカメラのシャッタースピードはマニュアル時は1/30秒に固定されますが
AUTO(EE)時には露出計と連動して1/30秒~1/800秒まで変動します。
シャッタースピード1/800秒?ほんとうにそんな高速で切れているの?
と疑いたくなりますよね。
これにはカラクリがあります。
ハーフ 17には絞り羽根がありません。
シャッター羽根が絞り羽根も兼ねているからです。←これとても重要なポイントです。
画像はハーフ 17のシャッター羽根です。二枚羽根構造となっています。
この羽根が開閉する事によってシャッターと絞りの役割を同時に果たします。
羽根がほんの少しだけ開いています。
この様な場合だと羽根の開閉のための移動距離が短くなるので
シャッタースピードは高速になります。←1/800秒
そして絞りのF値は大きくなります。←F16
羽根が全体の半分ぐらい動くと羽根の移動距離が増えるため
シャッタースピードは中速になります。←1/250秒
そして絞りのF値も中くらいになります。←F5.6 or F8.0
そして羽根が最大(開放)まで開くと羽根の移動距離が最大となるため
シャッタースピードは低速になります。←1/30秒
そして絞りのF値も大きく(開放に)なります。←F1.7
つまりシャッタースピードと絞りは一次関数のグラフ線の様に比例しているんです。
故に最高シャッタスピードが1/800秒が可能となっているのです。(あくまで理論上なのではないかと思いますが…。)
ですから1/800秒はF16.0の時しか使えません。
逆に1/30秒はF1.7でしか使えません。
各シャッタースピードと絞りの関係は以下の通りです。
1/30秒 F1.7
1/60秒 F2.8
1/125秒 F4.0
1/250秒 F5.6 or F8.0
1/500秒 F8.0 or F11.0
1/800秒 F11.0 or F16.0
とこんな感じになります。
つまり1/30秒でF8.0とか250/1秒でF16.0とか1/800秒でF1.7のような組み合わせにはならないという事です。
さらにAUTO(EE)時のシャッタスピード=絞りの変化はステップ式ではなく無段階式なので状況に応じて1/278秒とかF13.3といったような様々な中途半端な秒やF値で撮影さることになります。
ですから前回の投稿で『ファインダー内の露出計の指針が正しい値を指し示していなくてもあまり問題はない』と書いたのです。
現代と違って当時のアナログ技術ではそこまで精緻に表示できないでしょう。
次にシャッター羽根の開閉機構なのですが
前回でも説明した通り黄←のレバーがスプリングの力で赤←のフライホイールを蹴飛ばしてその遠心力と慣性力でシャッター羽根を開閉するシステムです。
私はこの機構は結構気難しものだと考えています。
このフライホイールの外径が小さ過ぎるか軽すぎるとシャッター羽根が完全に開かなくなるでしょう。
逆に外径が大きすぎるか重すぎるとシャッタースピードが遅くなるor不安定になると思います。
難しい説明になりますが
自動車やオートバイのエンジンに取り付けられているフライホイールと役割は同じです。
外径小 or 軽い = 角加速度 速 & 慣性力 小
外径大 or 重い = 角加速度 遅 & 慣性力 大
という二律背反する問題があります。
更に全力で開いたと思ったら即座に全力で閉じる動きをしなければなりませんのでこちらも二律背反していますから設計者はかなり苦労すると思います。
ヤシカ ハーフ 14を例にすると
ハーフ 17と同じ大きさのボディで大径にしてしまったため、シャッター羽根の開閉距離が増えました。なのでフライホイールを大きく(又は重く)して慣性力を大きくしたいけど角加速度が遅くなるためにシャッタースピードが遅くなってしまう。
しかもボディが小さくてスペースも無い、といった感じになります。
なぜここまで長々と説明したかというと
設計当時は外径と重さの微妙なバランスを考慮して設計したとしても、それぞれの部品が長年による経年劣化や摩耗等によって摩擦等の抵抗が増えると正しく動作しなくなる可能性があるのではないか。
と考えられるからです。
この辺を考慮して設計当時にマージンを取っていれば何とかなるかもしれませんが
ハーフ 14にはそんな余裕はスペース的にもなかったと思います。
各部の摩耗や経年劣化が原因だとすると、一時的に回復させることはできたとしても新品部品に交換をしていないので根本解決にはなっていないと思います。遅かれ早かれ再発するでしょう。
シャッターが固着して開かない状態の対処方法としては分解して羽根を洗浄する事とフライホイールの軸と軸受を洗浄する事です。
では部品取り用のユニットで本番前の分解練習です。
まずはフライホイールを外します。
ちょっと見にくいですが…。
赤←がフライホイールの軸受部です。
ピカピカに輝いています。これは摩耗した証拠です。
機械加工された新品はこんなに輝いていません切削加工の跡があるはずです。
取り外したフライホイールをシャッター羽根と共にベンジンに漬けこみます。
これで汚れや油分を除去します。
次に正しく動作しているかどうかの確認方法です。
条件としてはシャッター羽根が正しく最大の位置まで開いていることを確認することです。
ということで絞りリングをB(開放)の位置にしてシャッターボタンを押します。
この動画の様にシャッターが開放されればO.K.です。
シャッター羽根が開いても、シャッターボタンを押したままの状態なのにシャッター羽根が閉じてしまう場合があります。
そのような症状が出た時はまだシャッター羽根を開閉するエネルギーが足りませんので再洗浄および調整の必要があります。
実はコニカのEyeシリーズとC35もハーフ 17&14と同じフライホイール式シャッター機構を持っていて、しかも製造元も同じコパル(COPAL)なんです。
なのにコニカの方はシャッター開閉不良の発生率が少ないんです。
この違いはなんなのでしょうか…。
次回は本番です。