キャノンのデミEE17です。

 

 

このカメラは持ち運び・操作性・視認性・写り映え・デザイン等の全てにおいて優れていまして大好きなカメラのひとつです。

ヤフオク等でジャンク扱いの個体をを入手すると露出計が動かない物が結構ありま

す。

その原因の殆どが電池の液漏れによる腐食で電池室の電線の断線です。露出計本体まで故障しているのは稀なのでこの電線を新しくしてハンダで接続すれば大体治ります。ですから入手する際のチェックポイントとして電池室の蓋周辺に青緑色の腐食が噴き出していないかどうかを確認してください、また、電池室(本体底部)の画像が掲載されていない物も入手は避けた方が良いです。

 

さて、本機なんですが電池室の腐食は全く無く電池を入れると露出計は動作します。そしてシャッターシャッタースピードはちゃんと変わるのですがスピードを変更しても表示されるF値が変わりません。

ということでASA感度を変更してみたらF値が上下に動きました。

また光の量の増減にも露出計は反応するというちょっと変わった状態です。どうやら露出計本体は活きているようです。

ということで本機を分解しながら、謎を解く探偵になったような気分で故障の原因を一緒に探っていきましょう。

 

まずレンズ鏡胴部前面にある黒いリングネジをカニ目スパナで外しましょう。

 

すると前面の銘板と絞りリングを外せます。

継日前玉レンズユニットをカニ目スパナで外すと…。

 

金色のリングが出てきます。

私はこの金色のリングを『菊ナット』と呼称しています。

この菊ナットを緩めて外すと…。

 

シャッタースピードリングとその下のリングが外れます。

赤井亜印部分の突起した爪は絞りリングに繋がる部分です。

 

絞りリング裏側にある矢印の部分の溝に先ほどの爪が嵌ります。

これによってAUTO自動露出からマニュアルF1.7~F16まで著性できます。

 

タイマーのレバー部品を外しますがこの時にワッシャー(スペーサー)があるので紛失す内容にしましょう。

次に革を剝がします。

革に使われている接着剤が年代、メーカーごとに違うため機種によっては非常に剝がしにくいものがありますがDemi EE17は比較的剝がれやすいですが硬い時は時はドライヤー等で温めます。シンナー等の溶剤を使うと革が劣化しやすいので私は使いません。

 

そして最中状の外皮を外します。

アルミ製なので変形させないように注意しましょう。

 

次に軍艦部裏側と側面にある5個のネジを緩めて軍艦を外します。

するとこのような状態になりました。

さこの状態から推理を始めましょう。

露出計は動作しているのにシャッタースピード増減させてもメーター値が変わらないという事は露出計とシャッタースピードリングの動きが連動していない可能性が高いです。

 

シャッタースピードリングには矢印部のような爪が出ています。

 

この爪がカメラ前板側の矢印の溝に嵌ります。

 

拡大しました。

この溝にはフォーカスリングと同じ動きをするカムが付いています。

そのカムに連動するレバーがあります。

 

個々から内側を覗いて拡大した写真が

 

これになります。

黄矢印のレバーのローラ部が赤矢印のカム部から脱落していました。

 

これが正常な状態です。

ローラーがカムから脱落していたということはカムが回転オーバーしてたことになるため、先程の溝の位置が正しい位置に存在しなかったためシャッタースピードリングの爪は溝に嵌る事ができずに単に空回りをしてカムが動いていなかった

ということになります。(注:シャッタースピードはリングの別の部分でコントロールされていたので正常に作動していました)

ではこのカムに連動していたレバーは何処に連動しているのでしょうか?

 

実は露出計の前に絞りのような羽根ありまして、これの開閉で露出計に当たる光量を調整しています。

その羽の開閉率をカムがコントロールしています。

画像は最大に開いている状態でシャッタリングB(バルブ開放)の状態です。

 

そしてこちらが最大に閉じている状態1/500秒の状態です。

 

ここまで分解しちゃったのでファインダーもクリーニングしちゃいましょう。

 

推理の結論としては

カムからローラーが脱落する程回転してしまったため、溝の位置が爪の範囲を超えた位置になってしまい爪が嵌ることができなくなってしまい空転していて露出計の前の羽根を開閉できなくなりシャッタースピードと連動できなかった。

ということになります。

推理結果を実証するために組み直して動作をチェックしてみると見事に露出計がシャッタースピードの増減に露出計が連動するようになりました。

ただ…。

この推理が正しいとしたら過去に一度分解されていて再組立の時に溝の位置を間違えて爪が溝に嵌らなかったという前提がなければなりません。

しかし、私が分解した感じ特に革を剥がした時の接着剤の状態では今回以前に分解されていないようなのです。

結局その部分の謎は解明できませんでした。

ともあれ、ハイッ!これにて修理完了!

と思って最後にマニュアル状態での動作チェックをしてみると…。

ナ、ナント!

絞りリングをF1.7の位置にしても絞り羽根はF4位までしか開かない!

ナンじゃこりゃぁ?どうして?

AUTO(自動露出)ではキチンと動いているのにどうしてこうなる?

20分程度絞りリングをAUTOとF1.7にして何度も繰り返してシャッターを切ってみたけど症状は変わりませんでした。が、ある時電池を外してシャッターを切ってみたら

F1.7の位置で絞り羽根はキチンと解放されました!

ということはAUTOとマニュアルの変換時に何か原因がありそうな気がします。

ここで第二の推理案件がスタートします。

そもそもAUTOのスイッチはどのようにして入るのでしょうか?

 

再びこの状態にして絞りリングと繋がる爪を何度もAUTOの位置に動かしてしらべていると…。

 

水色の絞りリングの爪がAUTOの位置に来ると赤のトリガーが矢印の方向に押し上げられて黄色の部分のアームが矢印の方向に上がり、青の露出計とリンクしているAUTO(自動露出)用の絞りリングのピンが矢印の方向に移動して来ます。

 

このようになります。F値が大きくなると青のピンは更に矢印の方向に移動します。

 

マニュアル時は水色の絞りリングの爪が矢印の方向に移動するため赤色のトリガーと黄色のアームがスプリングの力で矢印の方に動いて青のAUTO(自動露出)用の絞りリングのピンが動かないようにロックします。これが正しい状態です。

 

ところが現状では青のAUTO(自動露出)用の絞りリングのピンが完全に戻り切れないために黄色のアームと赤のトリガーが定位置に戻れず絞りリングをF1.7の位置に動かしても本機は未だにAUTO(自動露出)状態と認識し絞り羽根はF4の状態になっていたということです。

ではなぜ青のAUTO(自動露出)用の絞りリングのピンが完全に戻り切れないのでしょうか?

このような場合で最初に考えられるのはリターンスプリングの張力が弱くなってる。

次に考えられるのがリンクやアームの摺動部が錆や変形等で摩擦抵抗が高くなってスプリングの張力が負けてしまっている。というケースです。

ということで別の場所にあるリターンスプリングを目視でチェックしましたら問題なし、摺動部の摩擦抵抗もありません。

さて、では本当の原因は?

実はAUTO(自動露出)用の絞りリングは露出計だけではなくシャッターボタンとも連動しているんです。

という事はシャッターボタンのリターンスプリングもこちらのリターンスプリングを兼ねているという事になります。

 

上部にあるシャッターボタンの機構部分です。シャッターボタンと繋がる黄色のアームが赤のシャフトに沿って下に下がります赤のシャフトにはコイルスプリングが黄色のアームの下に挿入されています。これがリターンスプリングです。

色々とチェックした結果黄色のアームが歪んでいてシャフトに対して穴が真っ直ぐでではなくなってしまいそれが摺動抵抗となって正しい位置まで戻れなくなっていました。といっても1mm以下ですけど。

アームがスムース動くように歪みをこれを修正したら青のAUTO(自動露出)用の絞りリングのピンが定位置迄戻るようになりました。

 

よ~し今度こそ修理完了だ!

と組み上げて動作を確認すると今度はAUTO(自動露出)が動かん!

第三の推理案件発生です。

絞りリングをAUTOの位置にしてもマニュアルのF16になっている!

そう判断してまたもこの状態まで分解して赤の爪が斜めに曲がったのだろう判断し画像で像で見て右へ傾けるように修正したら遂にAUTO(自動露出)でもマニュアルでもキチンと動作するようになりました!

 

さて動作確認は完了しましたので次は露出計の制度の確認です。

この状態まで組上げて余計な光を測光してしまわないようにしてチェックします。

 

私はこのミノルタのスポットメーターを使用して精度をチェックしています。

測光範囲(角度)がカメラとは違うため正確さには欠けるかもしれませんが、

DEMI EE17の露出計は概ねO.K.でした。

 

さて、ここまで組上げたら革を貼り付けます。

 

貼り付けの際には私はこの接着剤を使用しています。

ただこのままだと接着剤が濃すぎて接着面から溢れ出てしまうので溶剤で薄めて使います。

 

最後にタイマーのレバーを取り付けて

ハイ、これにてようやく完成です。

今回は最初の推理だけで簡単に終わると思っていたのに次から次へと新たな推理案件が発生してしまい苦労しました。

でも機械制御式のカメラなので手間はかかりますが予測される要因を1つずつ潰していけば最終的には原因に辿り着けます。

ですが電子制御式となるとどの回路のどのICが制御をしているのか見ただけでは解りません。配線図があったとしても困難かと思われますしICチップが現在でも手に入るかどうかも解りません。

そういう意味では古いフィルムカメラの方が修理し易いかと思います。

 

本機のテスト撮影は近日中に行います。