月に一度だけつけるピアスは小さい。髪を下ろせば全く見えないほどの小さな石に触れると心がザワりとする。

これが私の手元に届いたのは30年以上前。

当時は学生だったのでまだピアスをあけてなくて大人になったらと言ってプレゼントされたフランス土産。決して高価なものじゃないけど私の中では今のところ棺桶に入れるリストの筆頭。(笑)

何度もキャッチを変えて年に数回はメンテもお願いする。

石は小さなダイヤ。とてもクラリティなんて分からないほどの小さなダイヤ。勿論ブランドでもない。どこのお店かもわからない。なんとなく入ったお店で展示してあった商品を買うついでに目についた。と言っていた。そんなのだけど事情を話したお店の店主は快く持ち込むと大切に扱ってパーツを見てくれる。

私は右耳だけ二つのピアスの穴がある。

ピアスにまつわる中世の話を彼から聞いた時からこの開け方しか選択肢がなかった。

プレゼントの主はもういないけど彼の元に季節の香りが届くように毎月花を手配する。


人と付き合うということはその人の人生に入ること。

その人の人生が終わってもほんの一瞬でもそれに変わりはなく互いの人生に共有した時間は残る。

私のMを最初に見抜いて受け入れてくれた彼の存在は私の人生には大きい。

自分から閉ざした願望を世間話をするようにさらりと話す彼は同級生。野球部でお勉強はできなかったけど学年を問わずに人気者だった。付き合いだしてからは嫌がらせをする先輩がいたり今となってはくすくすと笑うような思い出もちらほらと。。

そんな彼が土曜日部活の帰り道、手拭いで口を覆われた女性が苦しそうに快感を我慢する写真を見せて「麻美ならもっと綺麗だと思うけど。」と。。まるでアイドルの写真を見せるように軽く見せた。必死に否定する私を見ながら視線を背けられない顔を見て確信したのか彼は「はいはい。でももう少し待って。」そう言われてハグされたことや彼との時間は日記に細かくしたためていたのが私の中の彼の記憶を風化させない一番の立役者。それでも奥底に閉じ込めたままの願望に変わりはなかったしそれを彼は開く機会はないまま。

そんな彼へ今月は少し涼しくなったので私の大好きなお花をベースにお願いした。

少し前に住職から連絡があり写真が送られてきた。

私が未だにそこへ足を向けないのは私の都合ではない。そんな私の気持ちを知ってか住職はもういいと思うよ。といってくれるけれどそれを快く思わない人がいることは分かってる。だから私にとってそこは禁区。お花を届けることだけでも許されたのはありがたいと思うべき。その人たちの感情のアップデートはする気もないしできない。(苦笑)


彼の言葉は色褪せない。


人がそう動くにはそれなりの理由があるんだよ。

だから嬉しくても不安でもありのままを出せばいい。その意図を考えられない人とは縁がなくなるから心配するな。


確かにそうだった。

今の時点でも小説の一つぐらいは普通に書けるような人生だったけど(笑)長く私と関わってくれている人に私はいつも甘えている。

逆もまた然り。どんなに切っても切れない関係でも不要と思えばいとも簡単に切る。


彼は私よりはるかに大人で早く生きすぎた。

久しぶりに繋がらない記憶を日記を頼りに繋げようと思ったけれど怖くてやっぱりできなかった。(苦笑)

でもいつかは彼が眠る前で話せる時がくればいいなと。。。

日記と一緒に仕舞っている写真の彼は若い。

そして彼からもらったメモのような手紙をそっと開くと下手くそな字が見える。(笑)

修学旅行で一緒に買った半分に割れたハートのネックレスの片割れやクラブで使っていたタオル。色違いのシャーペンや菓子パンの付録のシール。彼の学校の校章。小さいものばかりだけどみんな大切な思い出。

この箱の中だけはずっと10代のまま。ふと思った。



私だけまた歳を取ってるよ。(苦笑)