山の神：どうした、地の神、そんな浮かない顔して？

地の神：山の神よ、今日、4月9日は何の日か知ってるかい？

山の神：今日は大きな行事は無かったと思うが。こっちは、北米の山火事をそろそろ止めるくらいだけど。

地の神：それも大変だろうけど、今日は1カ月に1回の例の儀式だよ。人間に『褒美と試練』を与える日だ。

山の神：あー、地の世界では一番嫌がられてる儀式だな。ランダムに人間を選ぶんだっけ？

地の神：そうそう。まず大神様がしっかりスクリーニングをかけているんだけど、その中から神々が光の矢を放って、ランダムに選定するんだよ。本選定は大神様しか許されていないから。褒美は良いけど、試練の矢は毎回きついよ。

山の神：そうだよな。褒美も試練も多くの涙を見るけど、試練の涙は何倍も辛いと聞く。褒美と試練は表裏一体なんだけどな。それが人間に伝わっていないこともまた辛い。

地の神：そうなんだよ。人間界には絶対的なルールがあることを知っている人間は少ない。

山の神：どうにかして人間に教えてあげることはできないのかね？

地の神：それはできないのだよ。我々から人間に直接語りかけることは禁止されている。だから、いつも間接的にあの手この手でヒントを送っているのだけどね。なかなか。

山の神：この世界は完璧なバランスで成り立ってるからな。良いことも悪いことも絶妙なバランスで共存している。人間の言葉で言うところの正負の法則ってやつかな。

地の神：そうだね。もっと今風な言葉で言うと、No pain, No gainとか、トレードオフってやつだな。これをわかってもらうことが最大の目的なんだよ。

山の神：それを理解してもらうための啓発活動か。地の世界も色々と苦労があるんだな。

地の神：それは、山の世界も海の世界も一緒だよ。この前なんて、海の神が嘆いていたよ。人間は、勝手に海を汚して、勝手に海を綺麗にしようとする。何もしてくれないのが一番なんだけどな、って。

山の神：あー、言ってたな。最近では海の神が一番辛いって聞くよ。温暖化の問題もよく話すけど、人間が地球の環境を変化させてるなんて、なんともおこがましい話でね。

地の神：気温の変化なんて、地球のライフサイクルの一環でしかなくて、人間の影響なんてほぼ0に等しいからね。それも人間達は分かっていない。人間は随分と偉くなってしまったもんだよ。

山の神：全くその通りだ。山も一緒だよ。勝手に木を伐採して、勝手に植林して。困ったもんだ。で、褒美と試練の選定日はいつなんだっけ？

地の神：今日の夜だよ。新月だからね。今頃、大神様は大忙しだよ。人間の運命に関わるから。

山の神：大神様がしっかり一人一人のことを見て決めるのか。そう考えると、運命も最初から決まってるわけじゃないってことだ。

地の神：その通り。これも正しく理解されてなくて、運命なんて最初から決まってるっていう人間もいるけど、そうじゃないんだよ。大神様はちゃんと見ている。人間がより良い人間になるための手助けをしている。つまり、運命は自力で切り開けるということだ。

山の神：うむ。理解して欲しい大事なポイントだな。おっと、もうこんな時間か。ちょっと山火事の会議があるから、ぼちぼち失礼するよ。幸運を祈ってる。地の世界に幸あれ。

地の神：ありがとう。また話を聞いておくれ。山の世界に幸あれ。

【番外編】第85話：神々の仕事～褒美と試練