私の頭の中の消しゴム/チョン・ウソン

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若年性アルツハイマー型認知症を発症した女性と
それを支える男性の話です。
悲恋の物語の演出として若年性アルツハイマー型認知症を捉えれば、
それなりに涙ものなくなんですが・・・・
若年性アルツハイマー型認知症をより良く理解するためにと
思って観た立場としては少し不満足でした・・・
私のような目的で観る人がそんなにいないでしょうけど・・・

ただ作品としては、
若年性アルツハイマー型認知症の理解の促進が目的ではなく、
美しい悲恋の物語りなので、
良くも悪くもは若年性アルツハイマー型認知症は演出だから
突っ込むようなことでも無いのですが、
介護の実態や細かい症状などの描写は不十分でしたし、
「おいおい。」と思う画面もありましたが、

現実の介護の現場でもこの程度の間違いはあるでしょうし、
現時点のケアの方法はそもそも介護者の負担軽減であって
本当に当事者にとって良いものかもわかりませんし・・・
ただ介護者の負担軽減→介護者に精神的余裕ができる
→患者の行動に寛容になる、ので間違いではないですし、
介護者の過度に負担をかけるのは、患者にとっても
本意ではないでしょうし・・・

でも、全体的には随所に生活の工夫を垣間見ることができました。

あと誤解を招くかもしれないなぁと思ったのは、
二人が出会う前の、女性の不倫経験ですね。
彼女は不倫していた上司に裏切られ、
そのトラウマで一時的に精神に変調を来しますが、
なんとなくそのショックでアルツハイマーになったような
印象を与えかねないのではないかと感じました。
アルツハイマーは精神の病ではなく脳の障害ですから・・・
もっともこの失恋のショックで症状は進行することはありますが・・・・

またこの失恋経験のエピソードは、
夫さえも認知できず、
ついには昔の不倫相手と間違えると言う演出のために
必要だったのでしょうが、あまり必要が無いように思えますね。
間違えるなら、お父さんで十分ではなかったのかと思います。
最新の記憶から消えていき、
また強い情感を受けた記憶は
いつまでも残るとは言いますが、
なんとなく後味が悪いです・・・

でも、ラストシーンは感動しました。
その顔も名前も思い出も全て忘れ去ってしまった
お世話になった人々に囲まれ
「ここは天国ですか?」
とつぶやきます。
そう、個々の人は認知できないけれど、
その人々と過ごした楽しい身体的感覚、
-たぶんそれを愛と呼んで良いのでしょう-
例え認知症と言えども、失わないのです。
絶望の中の希望・・・
はかなくも美しい・・・


そして、彼女の命は短い・・・
アルツハイマーは死に至る病ですから。

私の頭の中の消しゴム@映画生活