ポニーキャニオン
海を飛ぶ夢

難しい映画です。
でも、基本的には尊厳死を肯定する映画なんですが・・・

青い芝の会って知ってますか?
横田さんと言うCPの方が中心となって立ち上げた
障害を持つ人たちのグループです。
事の発端は70年代に障害を持つ子どものお母さんが、
その子どもを殺すと言う事件が横浜であり、
お母さんの減刑を嘆願する運動があった。
そのとき、横田さん達のグループが「障害者に生きる権利は無いのか!」と否定される命からの問いかけをしました。



横田 弘, 原田 正樹, 長谷川 律子, 立岩 真也, 米津 知子, 金 満里
否定されるいのちからの問い―脳性マヒ者として生きて 横田弘対談集

横田さんたちは先天性の障害を持つ人々であり、
彼/彼女にとっては障害を持っている状態が普通なんです。
それにCP、所謂脳性マヒなんですが、病名からなんとなく
頭脳も障害があるように思いますが、頭脳は明晰です。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)と言う難病があります。
これはヤンキースのルー・ゲーリック選手が罹ったことから
ルー・ゲーリック病とも呼ばれています。
ホーキング教授も非常に進行が遅いALSです。
この疾病は病気が進むにしたがって、
手や足をはじめ体の自由がきかなくなり、
話すことも食べることも、呼吸することさえも困難になってきますが、
感覚、自律神経と頭脳はほとんど障害されることがありません。
進行には個人差がありますが、発病して3~5年で寝たきりになります。
呼吸不全に至る場合には人工呼吸器を装着しなければ
生き抜くことができなくなりますが、
逆に人工呼吸器を装着すれば、何十年と生き抜くことは可能です。



立岩 真也
ALS 不動の身体と息する機械

さて、この映画の主人公は事故で全身麻痺になります。
そして、CP、ALS同様、頭脳の障害がありません。

十分にインフォームド・コンセントを受けたうえで
尊厳死を選択するのなら認めるべきだとと言う流れがあり、
この映画はその路線に基づき作られた映画です。

しかし、自己決定・自己責任と言いつつ、社会的に尊厳死を
選択することが美徳であるとされてしまうと「生きたい」とは
なかなか言いにくい雰囲気になるのではないか
と思う。
かつてALSは確実に死に至る病で、不謹慎かも知れないけど、
看護する家族の立場としては、「まぁ5年ぐらい我慢すれば、」
みたいな病気だったのですが、今は人工呼吸器を装着すれば
数十年生き抜くことはできます。
当然、お金はかかります。
ALSはこの映画の主人公と違い徐々に動けなくなっていきますが、
両者とも元々は(この表現は余り好きではないのだけど)健常者だった。
だから、尊厳死を求める気持ちは簡単に想像できる。
しかし、尊厳死を認めるのであれば、生きたいと求める人に
体の自由が利かないことを十分に補う支援体制を整備し
、健常であった時と可能な限り同じ程度のADL(日常生活動作能力)
を保障しないといけない。

でも、無茶苦茶お金がかかってしまうので、個人では負担できない
から社会的に負担する仕組みが必要になる。
これからの高齢者社会を考えると、軽微な障害を持つ人々が増える
だろうから、お金はいくらあっても足りない状況だろう。
やはり尊厳死と言う名のもとで自発的に死んでいただく
しかないのだろうか?

では、そもそも障害を持って生まれてきた人々の場合は
どう考えれば良いのでしょうか?


うーん、難しい映画です。
この映画を観て単純に尊厳死を認めるべきだとは言ってほしくない。
もう少しきっちりと考えないといけない。

海を飛ぶ夢@映画生活