外向と内向を考えるうえで、格好の作品に出会った
先日、妻を誘って実写版『ルックバック』を観てきた。アニメ版を観たのは一年ほど前。そのあとで原作漫画も読んだ。今回は、ふたりの主人公の性格に絞って書いてみたい。
物語のあらすじにも触れるので、未見・未読の方は、鑑賞後にどうぞ。
原作者は、『チェンソーマン』の藤本タツキ。作風の違いに、同じ作者なのかと驚く人もいるだろう。『ルックバック』は、漫画を描くふたりの少女を描いた小品だ。短い。しかし、深く切り込んでくる。
主人公の藤野には、はっきりと外向的な性格が見える。相棒となる京本には、内向的な性格がうかがえる。
ただし、藤野がクラスの人気者だから外向型、京本が不登校だから内向型、ということではない。私が注目するのは、それぞれの意志が、外の世界とどう関わっているかだ。
悔しさが、そのまま行動になる藤野
藤野は、学年新聞の四コマ漫画で評判の少女だ。明るく、勝ち気で、褒められるとすぐ有頂天になる。喜怒哀楽が、そのまま表に出る。
そこへ、隣のクラスの京本の絵が掲載される。
最初は高をくくっていた藤野も、子ども離れした画力に打ちのめされる。同じ学年に、自分よりうまい子がいる。しかも、学校にも来れていないという。
藤野の負けん気に火がつく。猛烈に絵の練習を始めるが、思うように差は縮まらない。京本は一日中描いていられるからだ、と言い訳もしたくなる。やがて、四コマ漫画を描くのをやめてしまう。
藤野は、感情が動くと外へ向かう。悔しければ挑み、認められれば勢いづく。本人が何を望んでいるのか、周囲にもよく分かる。
ここに、私は外向的な性格を見る。単に元気なのではない。自分の意志で、外の世界に働きかけていくのだ。
対する京本は、人との関わりにはためらいがある。しかし、絵に向かう集中は深い。外へ出る動きが少ないからといって、内側まで静かなわけではない。
藤野には、まず相手に働きかける動きが見える。京本には、いったん自分の内側を通してから応じる気配がある。
この違いのディテールを、藤本タツキは実に鮮やかに丁寧に描いている(恐らく作者の性格は両行型のタイプだ)。その性格描写の普遍性に、この漫画とアニメが世界的な名声を獲得した秘密がある。
連れ出す人と、動かす人
小学校の卒業式の日、藤野は京本に卒業証書を届けるよう頼まれる。
そこで初めて、自分が敵視していた相手が、実は自分の漫画の熱心なファンで、藤野は生まれて初めて「先生」と崇められる体験を知る。
この出会いまでの導入が、素晴らしい。
自信を打ち砕いた相手から、今度は描く意欲を取り戻させてもらう。帰り道の藤野は、うれしさを身体にしまっておけない。外向的な彼女の持ち味が、ここでは何とも愛おしい。原作、アニメ、今回の実写と三者三様の演出と表現が楽しめる。
実写版では、子供時代(岡田六花)と成長してから(蒔田彩珠)と、京本役を内向型の俳優が演じている。藤野役の七瀬ふうり(子供時代)は典型的な外向型、出口夏希もおそらくソフトな外向型の俳優と観た。
やがてふたりは一緒に漫画を描き始め、藤野は京本を外の世界へ連れ出す。
原作からアニメ、そして今回の実写へと観てきて、私には、ふたりの対等さがいっそう鮮明に感じられた。是枝裕和監督の実写版では、京本のパートが加筆され、性格の違いから生まれる機微と齟齬とが、丁寧にふくらまされている。
私たちは、とかく外向的な人を「主」、内向的な人を「従」と見なしやすい。社交や行動の場面では、前に出る人と、その人を頼る人という形になりやすいからだ。
友達でも、恋人でも、夫婦でも、覚えがあるのではないだろうか。
しかし、関係が深まるにつれ、それだけでは説明できなくなる。
京本を部屋から連れ出したのは藤野だ。けれども、藤野を再び漫画へ向かわせたのは京本だった。
外へ動かす力は目につく。内側を動かす力は、見落とされやすい。
振り返って、初めて見えるものがある
京本は、ただ藤野についていく人ではない。自分の意志で美術大学への進学を選び、ふたりは別々の道を歩き始める。
分かれ道で、樹を境にふたりが対峙するシーン。本音が言えない(弱さを見せたくない)藤野と、言葉足らずの京本という、ここでも対比が見事だ。青春の味はほろ苦く、そして世界は時に残酷だ。
その余韻に浸る間もなく、起承転結で言うなら「転」で、藤本タツキの本性が露わになり(!)、怒涛の展開が待っている。
藤野は、自分が外へ連れ出さなければ、と悔やむ。そして振り返るなかで、京本が自分にとってどれほど大きな存在だったかを、思い知らされる。
内向的な人の言葉は、いつも控えめとは限らない。相手の内側に深く届き、行動の原動力になることがある。藤野にとって、京本のまなざしは、描き続ける力の一部になっていた。
もちろん、内向型が支え、外向型が動くと決まっているわけではない。このふたりを見ていると、目立つ行動だけでは、人が人に与える力は測れないと分かるのだ。
「なぜ(漫画を)描くのか。」京本の問いは、藤野だけでなく、創ることに向き合う人すべての根元に触れる。
漫画は藤本タツキの、アニメは押山清高の、実写映画は是枝裕和の、それぞれの覚悟と応答なのだろう。
外向と内向を知る面白さは、人をふたつに分けることにはない。脳の違う仕組みと仕様で生きている人同士が、どこで相手を動かしているのか。それが見えてくることにある。
前を歩き、手を引く藤野。引っ張られ、その背中を静かに支えていた京本。
『ルックバック』は、振り返るまで見えなかった、その力を描いている。
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