頬を伝い始めた雫を掬って彼女の身体を抱き寄せた。
怖くて今まで出来なかったけれど。
今だって怖いけれど。
壊しそうで。
でも壊れるきっかけは作ってしまった。
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
暖かくて温かくて。
優しかった。
彼が剣を振るうのは自分のため。
共に戦う仲間を守るため。自分自身を守るため。
でもこれからは彼女を護るためにも振るいたい。
初めて知った愛しいという感情。
たった1つの想いのカタチ。
「・・・月が出てきましたね」
2人で誰も居なくなった空を眺める。
今度はもっと近い距離で。
「そうだな」
「・・・そろそろ・・・迎えがきます」
「追いかえそっか」
「駄目ですよ」
泰央と翠蓮は向かい合って。
「また明日、此処でお会いしましょう?泰央」
初めての約束。
初めて・・・
「?」
「・・・初めて翠蓮に名前呼ばれた」
顔を赤くして彼は言った。嬉しそうに。
「・・・そうでしたっけ」
「そ」
ふいに愛しくなってまた翠蓮を抱きしめた。
何度もきつく。
「ちょっ・・・泰央・・・!」
「・・・また、明日な」
翠蓮の手を取って手の甲に口付ける。
「・・・っ」
「・・・顔まで真っ赤」
「~~~からかわないでくださいっ」
「じゃぁな」
ひらひらと手を挙げて別れる。
明日もまた会おうと約束して。
「・・・翠蓮様」
後ろからかけられた言葉で一気に現実へと引き戻される。
「銀・・・」
「父君に翠蓮様を御捜ししております。騒ぎが大きくならないうちにお戻りを」
「そう…なら少し急いて帰りましょうか」
「はい」
うやうやしく頭をたれた後、彼は彼女の一歩後を歩き始めたのだった。