「シェリルかわいいよシェリルはあはあh「ねーちゃんうるさいー!ランカのほうがかわいいって!」……どう考えてもシェリルこそ至高」
なんてどうしようもない話をしていたのが数分前。
そのとき、私はこのままだとニートになるんじゃないかと心配されている弟と二人でアニメ鑑賞をしていた。
弟は俗に言うオタクだ。気がついたら部屋の壁はアニメのポスターで埋もれていたし、フィギュアも多く並べられている。
唯一セーフだと思えるのはあの抱き枕カバーがないことだろう。
オタクではあるけれど性格的には明るい。でも童貞。それを言うと「リア充氏ね、糞ビッチ」と言い返される。
彼氏がいただけでビッチと呼ばれるなんて……ねーちゃん悲しい。
まあ、弟の口が悪いのは仕方がないことだ。なぜなら我が家は一家全員口が悪い。飼い猫ですら性悪だ。
私は暇な時間を弟と過ごしていることが多かった。
よくブラコンだとかなんとか言われる。確かにそうなのかも?と思うこともあるけど、うちは家族みんなが仲が良いので特別なことだとは思わない。
今日もいつものように弟の部屋で暇つぶしにアニメを見ていた。弟が撮りためていた深夜アニメだ。
先週から一緒に消化しはじめて、ついに最終回を見終えた。
その結果、私はシェリル派で弟はランカ派ということで、くだらない口論を小一時間ほどしていた。
一向に平行線のままの会話にも飽きてきたときだった。ケータイの着信音が鳴る。友人からだった。
『久しぶりにセッションしよう!ついでに泊まりに来てー!』
友人とは一緒にバンドを組んでいる。最近はライブをしたいから、なんて理由じゃなくて、ただ一緒に音を鳴らしたいから。ていう理由で遊んでいる。
泊まりに来て、ということは今すぐ来いということなんだろう。家が遠くないからと言っても別に近いわけじゃないのに。勝手なヤツだとは思うが、私の友人たちは私を含めてわりと自分勝手だ。
文句を言いつつも泊まりの準備をはじめてしまう私も相当なバカなんだろう。
「てわけでねーちゃん行ってくるわー」
「うん、いってらっしゃい。お土産買ってきて」
「数キロ先の住宅街になんのお土産があると思ってんだ、アンタは」
ギター、ピアノは友人の家にあるからいらない。ってことで自分のメインの楽器でもあるベースと泊まり道具一式をもって家を出た。
友人の家に泊まりに行って一週間帰ってこないのはざらなので、結構な大荷物だ。
父親から譲ってもらったバイクに乗って、さあ出発。……そして事故った。
「(――はずなのに、なあんで病院?)」
事故って怪我して入院?にしてはほんとに家を出て僅かしか時間が経っていない。
ずっと気絶してた、とか言われたらどうしようもないけど。ずっと寝ていたときの頭がぼーっとする感じがない。
妙に意識ははっきりとしているのだ。そして何だか……空気が違う。
何と言えばいいのだろう。病院なんて何度も行ったことがあるし、薬臭い感じの部屋の匂いにも覚えがある。
それなのに、違うのだ。周りが纏う空気に違和感を感じる。まるで、違う世界に来てしまったかのような……。
コンコン、と控えめなノックが聞こえた。
辺りを見回しても人はいない。この病室は個室だったらしい。
つまり今のノックはこの部屋にいる私へのものだったようだ。そんなことを考えているうちに病室のドアが開く。
横に手でスライドするドアを想像していた私はそのドアが開く様子に驚いてしまう。
しゅん、という微かな機械音と共にドアは横にスライドした。自動、だったけど。
「あら……!目が覚めたんですね!具合はどうかしら?」
看護士さんは驚いた様子で駆け寄ってくる。病室で走るのはどうかと思うのだけど。
しかしこの看護士さん。私の見間違いでなければどうみても外国人だ。
日本語ぺらっぺらだからハーフ?なんにしろかなりの美人である。すばらしい。
質問に答えようと口を開き、声を発しようとした。そこで自分の喉が酷く渇いていることに気づいた。
なんとか搾り出すかのように出した声はインフルエンザになったときのようなガラガラ声だった。
同年代の女の子と比べると低いけど、よく通る声は羨ましいと言われることが多かった。それだけに声がガラガラになってしまうのはちょっとショックだ。
「あー、げんき、です。ていうか……ここ、どこですか? わたしは、なんで、ここに?」
それに、バイクと楽器はどうなったんですか?と、ガラガラの声を聞いていた看護士さんの様子がおかしい。
なんだか顔色が悪くなっている。小さく、「記憶喪失?」という声が聞こえた。
私の質問に「あなたは事故でこの病院に運ばれたんです」という返事をすると、先生を連れてきます。と言って看護士さんは病室を出ていってしまった。
私が記憶喪失?そんなことがあるわけがない。
数分前までの弟とのやり取りも、鞄になにを入れたかまではっきりと覚えている。
でも、ここが私のいるべき場所でないような。そんな違和感も同時に感じる。
ふと、病室の窓から見えた外の景色。
私の住む場所は都会ではない。むしろ田舎だと言ったほうがいいくらいの場所だった。
それなのに窓の外に立ち並ぶ、高層ビル、機械、機械。空には機械の光なのだろうか。境界線のような光が張り巡らされていた。
「ここは、どこなの?」
なにもわからない。なぜこんなところにいるのか。なにも。
胸の中に渦巻く不安。今まで忘れていたかのように、急にやってくる頭痛。
手を頭に触れるとそこにあるのは包帯だった。怪我をしているようだ。
わけがわからなくて、ただ、不安で。涙が溢れてきそうだった。
でも泣いてしまったら、この不安な気持ちに負けてしまいそうな気がして。ぐっと歯を食いしばった。
***
あーシェリル可愛いすぎて生きるのが辛い。と考えてたときに思いついたトリップもの。つづかない。