外に出るとそこにはもう拓真くんがいた。
「ごめん、待った?」
拓真くんは笑顔で首を横に振った。
なんだかデートみたい。
そう思ったら急に緊張してきた。
「ちょっといい?」
「うん。」
あたしたちは水野公園に行った。
その間、拓真くんは何も話さなかった。
公園のベンチに座ってからもしばらく沈黙が続いた。
拓真くんは何かずっと考えてるみたい。
あたしは何だか怖くなった。
「何か飲み物買ってくるね。」
そう言って立ち上がった。
「あ、オレが買ってくるから。」
すかさず拓真くんも立ち上がった。
「何がいい?」
少し焦ってる拓真くん。
なんか別人みたい。
「お茶かオレンジ。」
なんとか笑顔を作って答えた。
「わかった。待ってて。」
そう言うと拓真くんは自販機まで走って行った。
あたしはまた座って早鐘のように鳴る胸を押さえた。
何度も深呼吸して落ち着かせようとした。
でも冷えて固くなった手足はどんどん感覚がなくなって震えだす。
拓真くんと二人…。
人生で一番緊張してるかも……。
「はい。」
と、拓真くんがお茶缶を差し出してぴくっと体が反応した。
「ありがとう。」
なんとか震えてることを気付かれないように受け取る。
ちゃんと笑えてるよね…?
あたしが缶を開けたのを確認すると拓真くんはふーーっとため息をついて隣に座った。
右側の空気だけまるで違うように感じる。
ちらっと拓真くんを見た。
拓真くんは真っ赤になってコーヒーの缶をおでこにくっつけていた。
ゆっくり缶を放すと切り出した。
「あのさっ。」
こっちを見ずに声を振り絞るように続ける。
「山城って好きなヤツとかいるんかな?」
もう耳まで赤くなってる拓真くん。
「えっ!?」
思わず声をあげた。
「それって……。」
あたしの言葉に拓真くんはただ頷いた。
なあんだ、そっか。
理解できた。
それでも体はまだ震えている。
言葉がでない。
拓真くんは黙るあたしに慌てて弁解を始めた。
「ごめん。別に周防を使おうとかそんなんじゃないんだ。ファンクラブのことも嬉しかったし。ただ…。」
またうつむく拓真くん。
「中学ん時からマジだったから…。周防にも応援してもらいたくて。」
必死な拓真くんを見ていたらなんだかおかしくなった。
いつのまにか震えも止まっていた。
「いないんじゃないかな。」
そう言うと拓真くんは真っすぐにあたしを見た。
あたしはにっこりと笑ってみせた。
それを見て拓真くんは安堵のため息をついた。
「よかった。」
「でも、このお茶は拓真くんのおごりね。情報料~。」
あたしたちは二人で笑った。
たぶんちゃんと笑えてた。
家まで送ってもらう頃にはすっかりいつものクールな拓真くんに戻っていた。
「また連絡する。」
そう約束して拓真くんは帰って行った。
あんな拓真くん初めて見た。
それだけスズちゃんが好きなんだ。
全然気付かなかった。
部屋に入ってベッドに腰かけた。
するとなぜだか次々に涙が溢れてきた。
悲しいというより自分が情けなかった。
拭っても拭っても溢れてくる涙。
次第に鳴咽も混じってくる。
「ジャス………。」
気が付くとジャスの名前を呼んでいた。
「ジャス…。」
返ってくることのない返事にますます辛くなった。
「ジャスぅ…………。」
コツ。
何かが足先に触れた。
見るとティッシュの箱だった。
端の方にバツが悪そうにジャスが立っていた。
「ジャス!」
あたしは床に座り込んでジャスを覗き込んだ。
本物だよね…?
ジャスはちらっとこっちを見て照れながら叫んだ。
「はよそのぶっさいくな顔拭きぃや!」
あたしは笑いながらティッシュを取った。
「ほんま、オレがおらんとしゃーないな。」
「うん、ごめんなさい。」
嬉しいのにまだ涙は止まらない。
ジャスはティッシュを持ってあたしの肩に乗った。
そして優しく頬を拭いてくれた。
「泣きたいだけ泣けばええ。オレが一緒におったる。」
「ジャス、見てた…の?」
「いや、玄関越しに拓真を見ただけや。」
「あのね、拓真くん、スズちゃんが好きなんだって。」
言ってまた洪水のように涙が溢れ出る。
「うん。」
ジャスは全然驚きもしないで優しく触れていた。
「知って…たの?」
「うん、こないだ、拓真がずっとスズのこと愛しそうに見てたから。」
「……。そっか。知ってたんだ。だから意地悪してたんだね。」
ジャスは黙ったままだった。
「ありがと、ジャス。」
ティッシュで顔を押さえたまま笑って言った。