このブログもめでたく第13回を迎えることができた。
今回は、米田靖之氏による『JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか』
(KADOKAWA)をご紹介していきたい。
米田氏は、元JT執行役員であった方である。ちなみに、本書全体を貫いているキーワードは
「変な人」という言葉である。これは、いわゆる「挙動不審者」であるとか、「犯罪すれすれの
ことをしてしまう人」であるとか、断じてそういった意味の人物を指すのではない。すなわち、
著者の言う「変な人」とは”ほかの人と違う視点で物事を捉え、行動できる人”や、”発想がユ
ニークで、自分がおもしろいと思ったことを「素直に」行動に移せる人”であり、さらには”試行
錯誤の過程で失敗しても随時自在に考え方を変えながら、ぐいぐい前に進んでいける人”の
ことを指している。
普通に考えれば、ビジネスパーソンというのは、当然出世や昇給に最高レベルと言って差し
支えない興味・関心があるはずだと思うのだが、著者の意味する「変な人」とは、そういった
ことにあまり関心がなく、”もともと「自分のやりたいことをやる」タチなので、ポジションを上
げていくことに大きな魅力は感じない”人物のことだという。
また、「変な人」は相手の言ったことのほうがいい、おもしろいと思えば、すぐに自分の考えを
変更するという「変わり身の早さ」にも特徴があると氏は仰っている。つまり、頭が柔軟であ
るというのである。
加えて、普通に考えた場合に、決して常識的ではないアイディアを思いつき、仮に周囲から
マイナス評価をくだされたとしても、そんなことでは決して怯まず、ある種の遊びのようなおも
しろさを追い求めていく人物のことも「変な人」の特徴として挙げている。
ところで、JTという会社には、派閥というものが一切なく、また年功序列的な考え方も存在し
ないため、公平、公正な人事評価が行なわれているという文章を拝読して、少なからず私は
感銘を受けた。また、採用における人物評価の仕方にも斬新な面白みを感じたので、以下に
引用したいと思う。ちなみに、これは”「能力×成長予測」で10年後を考える”という項目で
言及されていることである。
採用に長年携わってきた私の経験から、重視する(すべき)ポイントは大きく二点あり、
①能力(ポテンシャル)
②成長度(社風に合っているか)
です。
(中略)
たとえば入社時の仕事をする能力が「10」の人は、本人がやる気をもって自分の頭で考
えながら仕事をしていった場合は、10年10倍、100の力を発揮するようになります。「6」の
人なら60。40の開きが出ます。
「だったら、やっぱり10の人を採用したほうがいいでしょ?」と思うかもしれませんが、実際
には能力10の人が3倍の30くらいで終わるケースが多々あるのです。もともとの能力が高
くても、採用側が期待しているほどの成長を実現できないわけです。
一方、能力が「6」の人は60%の成長度でも、36になります。「10」の人を逆転できるの
です。
となればこの場合は、「10の能力」より「6の能力」を選んだほうがいい、ということになり
ます。この予測がいつも当たるとは限りませんが、過去自分が採用に関わったその後を
追いかけてみると、そこそこ当たっているように思います。
ようするに成長度は、本人がやる気になるかどうか、自分の頭で考えて仕事をするか
どうかにかかっているのですが、それを左右する一番大きな要素が「社風に合うかど
うか」です。
米田氏の人材観にはこのように非常にユニークで素晴らしいものが存在している。
ちなみに本書では、上記の「社風に合うかどうか」について氏のお考えが詳しく述べられてい
る個所があるので、ぜひご興味を持たれた方はお読みになったらいかがかと思う。
この著作は、ほかにも示唆に富んだ素晴らしい内容に満ちている。やはりビジネスの第一線
で活躍された方の考え方というのは、とても勉強になると改めて思った次第である。