857冊目『オートフィクション』(金原ひとみ 集英社文庫) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

金原ひとみの自伝を思わせるような小説。小説の構成的には、作家で22歳の女性主人公(この時点で、金原ひとみと重なる)の過去を遡っていく形式である。〈22歳の冬〉から始まって、〈18歳の夏〉、〈16歳の夏〉、〈15歳の冬〉と続く。見事だなと思ったのは、年齢に合わせて文体が違うところだ。15歳、16歳の時代は、考えることがガサツで何の計画性もない。そのような思慮のなさが文体ににじみ出ている。

 

ただどの年代でも共通するのは、主人公の妄想癖だろう。飛行機では、彼氏が初対面のスチュワーデスと密会を楽しんでると思い込み、家にはスミス・スミスという謎の男が住みついていると妄想している。被害妄想この上ないが、主人公が狂気と共存しているところに金原作品の魅力がある。金原本人はとても狂っている人間のようには見えないが、このような妄想狂を作り出す文学的想像力はどこから獲得したのだろうか。

 

ところで、私はもし自分が精神的に狂っても、心療内科には行かないことを決めている。狂気を治そうとするよりも、むしろ狂気と共存したい。狂気から見える世界を見てみたい。もしかしたら、私が最近金原ひとみ作品を読んでいるのは、この狂気への欲望が自分の中にあるからかもしれない。最近、本当に文学を分かろうと思うならば、この狂気性を手放してはいけないのではないかと思うようになった。そういう意味では、文学を学ぼうとすることは、大変な覚悟を必要とするのだ。