michiのCOLORS.映画アニメ小説感想、エッセイ、イラストなどを載せています。 -28ページ目

michiのCOLORS.映画アニメ小説感想、エッセイ、イラストなどを載せています。

日常の悲喜こもごもと、ひとりごと。好きな映画、マンガ、本の感想を書き連ねていきます。
いきなりオリジナルの小説を、投稿したりもします。
一人ご飯の写真や、気に入ったレシピも、載せてます。
最近、イラストを載せ始めました。



古びた神社の境内に、現れたのは、幼馴染みのたけだった。
さくとたけは同じ寺子屋で手習いをしていた。
たけも、けして口が達者な方ではなく、おとなしげで口数の少ない少年だった。
積極的に異性と話す事のできないさくは、成長した今でも、たけとなら
、気負わず、自然体で話すことがでした。
それは、たけも同様だった。






『さく、今日は一人なのか』
『猫と遊んでた。今日は先に皆、先に帰ってしまったの』
『なんだ、気を使わせてしまった。またの日でも、構わなかったのに』
『勘違いしてるのよ、みんな』
ふふ、とさくが笑うと、たけもはは、と屈託のない笑顔を返した。
素朴な表情には、何の含みもなかった。
近所の女友達も誤解している。
さくとたけは、けして恋愛というもので、思い合う関係ではない。
年頃の娘には似つかわしくない、もっと子どもじみた、とても拙いものである。
たけの飾り気のない、人柄が、そのままにしておかせて、くれるのだろう。





さくは、細い木の枝を手に取った。
『今日は何を習いたい?』
『そうだな。動物の名前の言葉から、知りたい』
たけに請われるがままに、さくは地面に文字を書いていった。
鳥、猫、犬、牛、馬と、書き出していく。
たけも、拙いながら、一生懸命に真似ていく。
たけは、物覚えこそ、わるくはないが、読み書きの内でも、書くことがからきしダメだった。
書くことのみが、できないのである。
口頭では、答えられるのに。
どんなに頑張っても、人並みに文字を書けない。
覚えても、すぐ忘れてしまうのである。





寺子屋時代でも、よく面倒をみていたのは、さくだった。
もう手習いなど必要ない年になっても、そういった縁もあって、時折たけはさくに、教えを請うのである。
ままごと遊びの先生役を、さくも楽しむようになっていった。






『たけちゃんは、本当に勉強熱心ね。何でそんなに、字を学びたいの?』
『俺には難しくて、よく分からないが、字というものの形が、好きなんだ。俺は頭がよくないから、すぐに忘れてしまうけれど、一つでも多く覚えていたいんだ』
『どうして、そんなに好きなの•••?』
『学んだものがあると思うと、何故か安心するんだ。これから役に立つことはないが、知っていると思うと安心するんだ』
木霊のように帰ってくる答えは、飽くほどに、繰り返したやり取りだった。






たけの言葉は、さく自身に帰ってくる木霊だった。
今こうして、たけに教えることのできる自分だが、教養があったところで、役に立つ日が来るのだろうか。
畑仕事に家事手伝い、裁縫などに費やす日々で、やがて同じ仕事をこなす場所へ、移っていくのだろう。
ささやかな教養を、沈んだ水底からすくい出して、せめてものの慰めを与えられているのは、さくの方であった。






あまり上達のみえない学習能力の、たけであったが、好奇に目を輝かせている姿は、出来が良くても、とうに諦めてしまった人間より、余程生き生きとして見えた。
『日暮れに間に合うように、帰ろう。途中まで送っていく』
物思いにふけっていたさくは、たけの声で目を覚ました。







橙色に染まる景色の中で、二人で帰り道を歩く。
無邪気な子供たちの声が聞こえてきた。
さえずるような声で、囃すように、歌が響く。
『鬼さん、こちら、手の鳴る方へ』
『鬼さん、こちら、手の鳴る方へ』
目隠しした子を、惑わすように、誘うように、他の子たちが、囲みこむ。
本来なら、微笑ましい光景だが、さくは素直にそう思う気持ちになれなかった。
たけの眼差しも、陰っているように見えた。






『そういえば、たけちゃん。最近、顔色が良くなったね。夏の忙しさのせいで、とても痩せてしまったでしょう。私、少し嬉しいの』
『••••••••••』
『どうしたの』
たけは、唇を噛むような仕草をみせる。
一体、どうしたのだろう。
さくは心配になった。
『いや、なんでもない。ありがとう。さくが喜んでくれるなら、良かった』
どこか遠くを見ているような胡乱な瞳で、たけが呟いた。
遠くで、子供たちのはしゃぎ声が、木霊していた。







つづく