漂泊 警視庁失踪課・高城賢吾 著:堂場瞬一

堂場瞬一:著
中央公論新社 ISBN:978-4-12-205278-9
2010年2月発行 定価900円(税込)

仕事帰りに、同僚の醍醐や明神と共に酒を飲んでいた警視庁失踪課の高城賢吾…帰り際にビル火災に遭遇し、その時にバックドラフトに巻き込まれ明神が負傷してしまった!行きがかりで火災の捜査を手伝うことになった高城と失踪課の面々…火災現場から2体の焼死体が発見され、鑑識の調べでどうやら他殺の線が濃厚になるも、うち一体の死体の身元が判明しない。捜査を進めていくうちに、失踪人として捜索願が出ている作家の可能性がでてきて話は思わぬ方向へ…。
ページをめくってまだ数ページなのに、明神が負傷という大波乱の幕開け!捜査中でもないのに、こんな巻き込まれ方って思ってしまうんだけど…その後、火災現場から他殺体が発見されたり…身元不明の死体が、捜索願が出ている失踪人ではないかという事になったりと、意外とミステリアスな方向へ向かう。
さらに、今回は作家が事件に関わっているということで、高城が事情聴取する関係者の中に…かつて鳴沢了シリーズで何度か登場している、編集者の井村が登場する。しかも「鳴沢さんって知ってます?」なんて会話まで始める。ファン受けを狙ったサービスシーンみたいなもんだけど、鳴沢シリーズと、高城シリーズが同じ世界観であることが判明し、もしかしたら鳴沢も出てくるんじゃね?みたいな期待に胸が膨らむんですけど、さすがにそれはなかった。ただ、今後はそういう展開も無きにしも非ず…高城と鳴沢が一緒に会話を交わしているシーンを頭で思い描いてしまう。
明神の一時不在をカバーするように、捜査一課の長野の部下で、これまたひとクセある女刑事が登場するなど…シリーズものとして、今回はなかなか、面白い作品ではないかと思ったんだけど…後半に向かってテンポが失速していくのが、やはり堂場作品らしいなぁと。先述の通り、今回は犯罪小説を書いているミステリー作家が事件の鍵を大きく握っているわけで、 実はこういうタイプの話は、かつて鳴沢シリーズでもあったんですよね。そう、ちょうど編集者の井村が登場し、鳴沢の知合いであった新聞記者兼作家の長瀬(まるで著者の分身のようなキャラ)が物語に大きく関わってくる作品で。
作中でミステリー批判なんかもしたりしてるんですけど、堂場瞬一本人の愚痴ではないかと錯覚してしまう部分も少なくなく、ちょっとそういう描写がくどい。鳴沢シリーズの時は笑って読めたんですけど、さらにそういうのが前面に出てきちゃったなぁと。事件の展開なんかは違うんだけど、作品の印象が似てきてしまった。実は、作品内に登場する作家や編集者、さらには捜査の資料として作品に目を通した刑事達の言葉を借りて、そういうジレンマをやたらと語ってるんですよ。なんかそういうところが余計に引っかかってしまって、肝心な警察ミステリーを楽しむ余裕がなくなってしまった。
個人的採点:65点