少女ノイズ 著:三雲岳斗

三雲岳斗:著
光文社 ISBN:978-4-334-92589-5
2007年12月発行 定価1785円(税込)

ライトノベル、SF、推理小説と幅広く活躍する三雲岳斗の青春ミステリー…タイトルからあまり内容を想像できず、表紙だけで判断すると、もっとラノベっぽいものかと思ってしまったが、読んでみるとそれなりに推理小説の体裁は整っています。どこか空虚な天才美少女女子高生と、趣味で殺人現場の写真を撮り続ける大学生が様々な事件に挑む連作短編。
Ⅰ Crumbling Sky
准教授の皆瀬梨夏の紹介で予備校でバイトをすることになった大学生の高須賀克志…内容は、一人の少女の専属担当係という奇妙なもの。その担当相手、斎宮瞑は授業を受けるわけでもなく、毎回塾内のどこかでサボってばかりいる問題児。彼女はいったい何者であり、このバイトにどんな意味があるのか?
語り手の大学生とヒロインのファーストコンタクト…いったいこの不思議な美少女は何者なのか?というのを語るのと同時に、主人公の抱えているあるトラウマを冥が見破り解決していくという話だ。
主人公が幼少期に遭遇した奇妙な事件…とある式典に出席した際に、空から何かが降ってきて、目の前で担任教師が死んだというもの。以来、何もないはずの空に恐怖を抱いてしまう。
話を聞いただけで真相にたどり着く瞑…ミステリー的には、そんな卑怯なって感じのオチではあったけど、彼女の推理力を印象付けるための前座みたいなものでしょう。他にもいくつか推理力を発揮するエピソードができたが、どれもお飾りな感じ。結局、一番の読みどころは彼女の正体って事になるのでしょうか…。
Ⅱ 四番目の色が散る前に
趣味の写真を撮るため、殺人事件が起きたレストラン跡地に忍び込んだ高須賀克志は、殺人現場に献花する女子高生と遭遇。被害者も女子高生だったのだが、何か関係があるのか?制服から斎宮冥と同じ学校であることに気づき、瞑に質問をするのだが…。やがて、新たに男子高校生の死体が河川敷で発見され、特徴が女子高生殺しと似ていたため、連続殺人ではないかということになったのだが…。
続けて起きた高校生殺しが…共通して死体の一部が切断されていたことから、同一犯の仕業による連続猟奇殺人ではないかということになり話は進んでいくと…ようやく血なまぐさくなってきました。実は第一の事件の詳細を聞い時点で、真相を看破していたという冥だが…ある一部を読み違えしまい、犠牲者を増やしてしまう。
犯人や動機を示すためにポツリと冥がつぶやく“ABC”という言葉が、読み手にもかなり重要なヒントとなる…高校生でABCというと、アレの事か?と想像しちゃうんだけれども(作中人物にもそういう反応を示す人がいましたし)、そうではなく…ミステリー好きの人だったらもう一つ浮かぶものがあるでしょうって事です。
Ⅲ Fallen Angel Falls
予備校の屋上で自殺をしそうな女子生徒に声をかけた高須賀克志、ある日、予備校内で何者かが机に仕掛けた悪戯により、生徒が手に怪我を負うという事件が発生したのだが、被害者は例の女子生徒だった!さらに、彼女・浦澤華菜は、以前にも駅の階段から突き落とされるというトラブルに見舞われていたらしい。しかし犯人には心当たりがないといい、自分は呪われているからだと話す。いったい彼女に何が起きているのか?高須賀と斎宮瞑は真相を探りだすのだが…。
Ⅱに比べると地味な内容だが…女子高生とバイト大学生が解決する事件としては、このくらいの方が自然なのか?と思うところもあり。一番の読みどころは…ある犯行の直後に現場から逃げ出した、容疑者(犯人)の消失トリック。このあたりをしっかりと読んでいれば、犯人には簡単に到達できるのだが…もうひとひねり秘密が。
登場人物の名前に、多少違和感を感じたけど、そういうオチがあったのか。そんな大胆なトリックまで使って行うほどの犯行なのかなって思うけど…高校生なりの悩みがバックボーンに色々とあり、瞑はそういうところにまで踏み込み、表面的なことに囚われず、ある人物を助けるために躍起になって事件を調べていたということらしい。
Ⅳ あなたを見ている
高須賀克志は、バイト先の予備校で、ストーカー被害に悩む森澤恵里という生徒からある相談を受けていた…。ある日、帰宅した恵里は、家の中でストーカー男を鉢合わせしてしまい、とっさに近くにあった刃物で刺してしまったというのだが、気がつくと男は消えており、警察が調べても事件の痕跡が消えていたのだ…本人は幽霊を見たのではないかと言う。それとは別件で…皆瀬梨夏とある通り魔殺人を調べることになったのだが、事件現場に被害者の足跡が残されていたのに、犯人の足跡がない…またも幽霊の仕業ではないかと思えるような事件だった!斎宮瞑は二つの事件からある真実を導きだすのだが…。
二つの事件の関連性っていうのはピーンとくるわけですよ、短編作品だし、まったく関係ないって事はないだろうと…。普通に考えると、ストーカー男と通り魔の被害者が同一人物なんだろうなぁって事なんだけれども、一応、ミステリーなんでもうひとひねり用意されていましたね。
Ⅰで最初に登場した時はなかなかインパクトがあった、皆瀬梨夏も…その後、本当のヒロイン斎宮瞑が登場して以降は、すっかり影をひそめてしまい、あまり活躍の場がなかったんだけれども(登場はするんだけど出番が少ない)、ようやく今回のエピソードで目立つ活躍を見せてくれたって感じ。っていうか、もともと知合いのはずの瞑と梨夏が、作中で実際に顔を合わすのも、初めてだったんじゃないかなぁ?
Ⅴ 静かな密室
高須賀克志の前から斎宮瞑が姿を消して三カ月…高須賀は惰性で塾講師のバイトを続けていた。ある日、塾内で試験監督を務めている最中に、一緒に監督を務めていた同僚の女性バイト講師が教室内で撲殺された!試験が終わるまで高須賀も生徒もそれに気づかず…いわば現場は密室状態だった。警察は同じ部屋にいた高須賀を疑うのだが…その後、大学構内の部室で、写真を現像中だった高須賀は火災に遭遇し、重傷を負ってしまう。火災は偶然だったのか、それとも…。
探偵役の瞑が失踪・不在だというのに、高須賀は殺人容疑を掛けられるは、殺されそうになるは、まったくどうやって事件を解決するんだと最大のピンチに陥る…最終エピソード。実質密室状態だった、予備校の教室内で、誰が、どのように犯行が行えるかということが焦点になるんだけれども…なんか森博嗣っぽい感じのトリック。
そうだよな、三雲岳斗って、もともとSFで本格推理をやった人だもんな、こんな展開もありだよな。登場人物が少ないので、自然と犯人は検討がつく…その人の得意分野とかで、何かトリックを編み出したんだろうなぁと思いつく。ただ、あるアイテムがトリックを解く重要なヒントになるなどは…構成の巧さを感じました。読者の前に大胆に堂々とヒントが提示されてたんですよね~。
高須賀と瞑の珍コンビ…恋愛未満の微妙な感じなどは面白く読めたし、ミステリー的にも面白いものがいくつかあったが、それにしても、塾内で事件が多すぎ。ほとんど、生徒とか講師が被害者か加害者…こんなに頻繁に事件が起きたら、いくら大手の予備校だという設定でも経営やばいんじゃない?まぁ、そこをつっこんだら物語は進まないんだけど…短編作品なので、余計にそう感じてしまうよ。このコンビ、せっかくなんで長編で、もう少し本格的推理小説っぽいものを読んでみたい気が…。
個人的採点:70点