月への梯子 著:樋口有介 | 105円読書

月への梯子 著:樋口有介


105円読書-月への梯子 月への梯子

樋口有介:著
文藝春秋 ISBN:978-4-16-753107-2
2008年12月発行 定価620円(税込)









亡き母にアパート管理の仕事だけはちゃんと仕込まれた知的障害の主人公…ずっと自分の周りには良い人しかいないと信じていたけど、アパート内で殺人事件が起きたことから…日常が変わっていくという樋口有介のミステリー…2005年のハードカバー書籍を文庫化したもの。

知的障害だが、母親が遺したアパートの経営・管理をこなし、平和に、幸せに暮らしていたボクさんこと福田幸男、40歳。ある日、彼のアパートで住人の一人が殺されたことで事態は一変。死体発見時に梯子から落ちてしまったボクさんは一時、意識不明に陥るが奇跡的に大した怪我もなく…それどころか頭の回転がよくなり、自分でもびっくりしてしまう。さらにボクさんを戸惑わせたのは、事件後…他の住人も一人残らず消えてしまったことだ!

まるで裸の大将でも見ているような錯覚に陥る、ボクさんの日常…完璧頭の中ではボクさん=塚地武雅のイメージが出来上がってしまう。でも、これはミステリー…いきなり血なまぐさい殺人事件が起こり、それだけではなくどこにでもある下町アパートの見知った住人が、事件を境に全員消えてしまうというとんでもない謎が勃発する。

梯子から落っこちて、急に利口になって、本人はハンフリー・ボガードを気取って探偵まがいの行動をはじめてしまうボクさん…名推理とずば抜けた行動力を発揮するものの、殺人事件そのものを解決するというわけではなく…消えた住人探しの方が重要なようで、住人達の色々な秘密が次から次へと明るみになっていくというのが物語のメイン…。

もちろん、その過程で殺人事件の真相なんかも解明されていくんだけれどね…ただ、いくらなんでもご都合主義的な展開が多い。利口になっただけではなく、入院生活のせいで容姿まで変わってしまったというのが、なんだかひかっかる。で、途中で、もしかして、ああいう系統のオチなのかな?って予想はしてましたけど…やっぱね、どんでん返しが用意されています。

きっと他の作家が書いた、他の作品だったら許せないオチだと思うけど…樋口作品特有の、ユーモアと切なさを兼ね備えた物語、文章力だからこそ感動的な内容に昇華したんだと思います。似たようなオチって、映画や漫画なんかでもときどきあるけどさ、オチだけで勝負してないから良かったんだと思います。

自分が恋焦がれていた同い年の幼馴染の女の子…その女の子が結婚に失敗して出戻ってきて、いつも身近にいる。中年のおじさんとおばさんの不器用なラブストーリーが、ミステリーの本筋と見事に融和していて、こういうところも最後のジンワリとした変な感動に繋がるんだよね。






個人的採点:75点