顔のない敵 著:石持浅海

石持浅海:著
光文社 ISBN:4-334-07639-4
2006年8月発行 定価900円(税込)

石持浅海の短編集で、地雷をテーマにした作品を集めたもの(7本のうち、最後に載ってる1本だけ無関係)。著者がデビューしたての頃から拘っているテーマなのだとか。
地雷原突破
ベルギーで行われた、地雷の恐ろしさを市民に伝えるための地雷原再現イベント…実際には爆発しない音響地雷の中に本物が紛れ込んでおり、イベント主催者のNGO関係者が爆死した。同じNGOに参加する坂田は、酒の席で親友の早瀬に事故の様子を語って聞かせるが…早瀬は事故ではなく、殺人ではないかと疑い始める…。
地雷を使った殺人、トリックなど派手目な事件だが…それをアームチェアー・ディテクティブよろしく、酒の席で真相を看破しちゃうという…。推理小説的にはそこそこ、ただ物語的にはこれ一本だと、調子っぱずれに感じる箇所もあるのだが…その後の作品で少しずつ補完されていく感じ?
利口な地雷
地雷撤廃論を唱えるジャーナリストの永井綾子は、新しく開発されたスマート地雷の説明を受けるため、自衛隊の兵器調達担当者、小川一尉と共に開発工場へ出向く。そこで地雷の説明を受けた直後に、開発者の一人が、敷地内の倉庫で、金槌を使ったブービートラップに遭い殺されてしまった!
トラップ殺人…でも、そのトラップの説明はあまり詳しく載ってない。そうではなくて、なぜ、こんなトラップが仕掛けられたのか?という点から犯人を看破していく。トラップ自体には地雷は関係せず、地雷撤廃のテーマが、事件のバックボーンとして大きく影響する。
顔のない敵
カンボジアに地雷撤去にやってきたNGO団体のメンバー…地雷撤去作業中に、地雷原の地主であり、NGOに積極的に協力している地元の有力者が、誤って地雷原に入り込み爆死してしまった!しかし、遺体や現場の不自然さから他殺の疑いが…。
1本目に出てきた坂田とNGOが出てくるお話。発表時期は「地雷原突破」以降なんですけど、作品内ではそれよりも前のお話ということ。いちおう、事件の小道具にもちゃんと地雷が使われ、テーマもそれに即した方向で描かれており、真相は他の作品同様に、ちょっと地味で、新鮮味が乏しいが…表題作になるだけのまとまりの良さは感じた。
トラバサミ
戦争被害者自立支援会というNGOに参加している男が交通事故死した。その男の遺留品の中に…手作りのトラバサミが!警察は、男がどこかに罠を仕掛けたのではないかと考えるのだが…。事件を担当する久山刑事は、知り合いの自衛隊員、小川一尉に捜査協力を要請する…。
「利口な地雷」に出てきた小川一尉が再登場…犯人が仕掛けたトラバサミの在りかを、対人地雷に照らし合わせ、犯人の性格や、NGOでの活動内容から推測していくというもの。地雷というものに対し、一般読者が感じるだろう意見に近いものが、一番色濃く出ていたかなと思える。
銃声でなく、音楽を
地雷撤去のNGO団体に所属する坂田とサイモンは、有名な音響機器会社にスポンサーになってもらうため、プレゼンにやってきた。社長とのアポイントメントをとりつけたのだが、まさに2人が社長と会うために、プレゼンルームに訪れた瞬間、部屋の中から銃声が!
またまた坂田とNGOメンバーが関わった事件。地雷に関しての記述は、他の作品に比べ無理やり感があったが…坂田シリーズのキャラクターを理解するには外せない作品だろう。
未来へ踏み出す足
地雷撤去をするための作業ロボットを、現地で試作運用するためにやってきた開発者たちと、地雷の取材を続けるジャーナリストの永井綾子。テストが成功し喜んでいたのもつかの間、開発者の一人が死んでいるのが見つかった。顔には地雷撤去用に開発された特殊な接着剤が吹きつけられており…。
坂田と、小川一尉は出てこないのだが、2人に関わった他の人物同士が登場し、二つの系統の作品が、ちゃんと地続きであったとわかる、地雷シリーズの最後にふさわしい物語。ただ、これもテーマ重視なので、ミステリーと捉えると弱い。接着剤でグルグル巻きにされた死体、「顔のない敵」に登場したコン少年が、探偵役など…面白くなりそうな気配はあったのだが。
暗い箱の中で
同僚の女性社員が退職するため、送別会に向かう…5人の男女。しかし、そのうちの一人が忘れ物をしたので、みんなで会社に戻ったところ、急に地震が起き、乗ったエレベーターがとまってしまった。さらに真っ暗闇で、仲間の女性がナイフで刺されて殺された。犯人は4人の中に?
著者の商業デビュー作の短編だとか…あとがきの自作解説で、推理作家の鮎川哲也に地味だと言われたなんて書いていたが…確かに(DAIGO風)
会社の同僚同士が閉じ込められた密室のエレベーターの中で起きた殺人…という、いかにも本格ミステリな舞台設定は、嫌いじゃないが…犯人や事件の動機も予想通り。また、作品中に発覚するもうひとうの事件の方が、ちょっと描きこみが弱く、全体的な印象がイマイチ。
あと、この短編集に組み込むことはなかったのでは?正直、これがなかった方が…地雷作品6編でまとまりのあるものだっただろう。
最後に掲載されていた「暗い箱の中で」の場違いさに加え、「暗い~」以外は発表年代順に並んでいる、他の短編作品だが…それよりも作品内の時系列で並べなおした方が、登場キャラクターにもう少し入り込めたような気がする。
「地雷原突破」という、一番最初の作品を、地雷シリーズの最後か、その手前に持ってきた方が、「えっ!?」という驚きが演出できたのではないだろうか?作者もいろいろと考えているのだろうが、読者的にはちょっともったいないかな?
動機から迫っていったり、犯行状況から迫っていったり…推理小説的な楽しみは、いろいろと変化を変えているので、その点はうまさはちゃんと実感できるのだが、それよりも社会派なテーマを重視しているので、全体的に地味さはぬぐえないような気がする。
個人的採点:65点