ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ! 著:深水黎一郎

深水黎一郎:著
講談社 ISBN:978-4-06-182525-3
2007年4月発行 定価998円(税込)

昔は、メフィスト賞の受賞作品や受賞作家といえば、新刊で買って読みあさったもんだが…それすらも100円コーナーのお世話になってる。変なタイトル、読者が犯人と豪語する大胆なテーマなど、平積み時から気になってはいた作品なんで、早めに積読本の中からチョイスしてみたんだけど…。
新聞に連載小説を掲載している作家の私の元へ届いた奇妙な手紙…その手紙には自分の考案したミステリーのトリックを高値で買い取って欲しいというものであり、それと同時に、差出人が自分の人となりを知ってもらおうと、作家にあてた覚書が同封されていたのだが…そちらも素人とは思えない文学的な内容であり…。
最初の方、本当に初っ端の方でで、こうじゃないの?って作品の構成を疑ったら、やっぱりそうだったか…。なまじっか、文章が上手いだけに、作品の核心部ともいえるテーマが、単なる詭弁にしか感じられず、大した驚きが感じられない。この件に関しては、篠田秀幸の「蝶たちの迷宮」(懐かしい)とどっこいどっこいだろ。
作中の人物が、「文章はうまくないけど、トリックは最高」と何度も繰り返すあたりに、デビュー作で文章は拙いけど、トリックはすごいよ!みたいな、著者の驕りが現れていて、逆に嫌な感じもしてしまう。最初の方で、凄いトリックとは何なのか?って、ちょっとミステリー談義っぽいことを偉そうにぶちかましてるんだけど、かえってそんなもんを書かない方が良かったね。
多少はオチに対する伏線になっている、保険の勧誘やら、超能力を研究する博士とのやり取りやら…枝葉の話は、うんちくがいっぱいで面白いも部分もあるんだけど…手紙の差出人についてが、やっぱりノレない。
何故、主人公にこの手紙が届くのかが明かされる部分とか、そもそもその人物が、手紙や覚書を書くに至った原因とか…設定に矛盾が生じないような配慮は細かくされてるんだけど(著者の言い訳)…差出人の正体の人物像がやっぱり、結びつかないよ…あの人が、ああなって、こうしちゃったから、あんなになっちゃったってくだりが、強引すぎるね。
個人的採点:60点