レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 著:太田忠司 | 105円読書

レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 著:太田忠司

レストア 
オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿

太田忠司:著
光文社 ISBN:4-334-07630-0
2006年3月発行 定価840円(税込)








太田忠司の「レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿」を読む。著者の霞田志郎シリーズでも過去にオルゴールを題材とした作品があったが、よっぽど好きなテーマなんでしょうね。今回はオルゴールの修復師が主人公に。連作短編なので、一つ一つの物語は、推理小説としてちょっと物足りない部分があるんだけれども…人間ドラマの方で最後までなんとなく惹きつけられてしまう…。鬱病に掛かっていて病院通い…人付き合いが苦手な偏屈な主人公が、事件を通して人間らしさを取り戻していくというのがお話の流れ。

夏の名残のバラ

雪永鋼を修復師の道に引っ張り込み、常客の一人である遠江早苗から、奇妙な依頼が舞い込む…。ただでさえ人付き合いが苦手な鋼だったが、知人のオルゴールを直すために依頼人と直接会って欲しいと…。一方的な要求に、渋々従った鋼は…飯村睦月という若い女性と引き合わされる。彼女の依頼は、亡き父親の遺品のオルゴールの曲が、生前、父が聴いていた曲と全然違うものなので、何故、そんなことが起きたのか解明して欲しいというものだった…。

キャラクターの紹介編といったところだろう。オルゴールの謎は、解明されると大したことがなかったのだが、その後の出来事の発端になるエピソードで、これを機に今回の依頼人だった飯村睦月が抱える家族間のゴタゴタに引きずりこまれていく。連作なのは分かっているけど、それにしてもラストはちょっと中途半端な印象を受けたなぁ。まぁ、最後まで読むとスッキリするけど…単発で読むと評価しにくいです。


秋の歌

鋼は行き着けの喫茶店のウエイトレスから、オルゴールの修理を依頼される。高価な物ではないので、修理をするより新品を購入した方がいいと薦めるのだが、実は知り合いから預かった母親の形見であることが伝えられる。遡ること一ヶ月前、母子家庭の親子が火事の被害にあい、生き残った娘がどうしてもオルゴールを修理したいと願っていたのだ。事情を聞き、オルゴールを調べる気になった鋼だったが、それがきっかけで、火災の裏に隠されたある秘密に気が付く…。

一番、推理小説らしかったエピソードかな。単発で読んだら、これが一番面白いだろうなぁと思える話だった。飯村家の方はそんなに深く関わってこないんだけど…睦月が頻繁に接触を試みてきて、話が繋がっているんだよって言うのを匂わす役目を果たしていた。


冬の不思議の国

鋼の師匠であり、国内外からもレストアの腕を認められていた灘本が、亡くなる前に修理した最後のオルゴールが、壊れてしまったと早苗から修理依頼が舞い込む。灘本のレストアした作品が、たった数年で壊れるわけがないと怪しむ早苗だったが…案の定、そのオルゴールには秘密が隠されていた。

オルゴールを題材とした中では一番、綺麗にまとまっていたかなって思える話だった。事件らしい事件は起きないんだけど、暗号解読などが、盛り込まれていた。徐々にキャラクターの意外性などが見え始めてくるし、主人公の鋼にも何か秘密がありそうだと匂わせる記述が…。


春の日の花と輝く

飛び込みで修理見積を受けた鋼、しかしそのオルゴールは大して高価なものではなかった。持ち込んだ依頼主は、亡き祖父が自分が死んだら処分してお金に変えろと言い残したので、さぞかし高価な物なのだろうと期待していたらしいのだが…。

思わせぶりだった飯村家のゴタゴタが表面化。作品全体を考えると、クライマックスへ向けて一番盛り上がってきたところなのだろうが、テーマになっているオルゴールの話のほうが、脇のような存在になってしまった印象を受ける。何で祖父は自分が死んだら処分して欲しいと考えていたのかというのが今回のカギでもあるんだけれども、それよりも主人公の身に降りかかっているゴタゴタを助けるヒントを、その依頼から得るいうのが重要だったみたい。


わが母の教えたまいし歌

父親の会社を継ぎ、切り盛りしている姉が持ち込んだ、壊れたオルゴールペンダント。実は母親からのプレゼントだったと鋼に伝える…。

飯村家のゴタゴタもようやく収束に向かいつつ…ようやく鋼の秘密が明らかになる。結局、オルゴールのレストアをしながら、それに関わった他人の心をレストアし、自分の心もレストアされていたという。鋼の“あの秘密”…もっと凄いものを想像していただけに、ちょっと拍子抜けだった。


実は、全ての短編に共通するのが、“親子・家族”の問題が絡んでいるということ…。個々のオルゴールにまつわるエピソードもそうだったんだけれども、飯村家のゴタゴタにしろ(あえて各短編のあらすじには含まなかったんだけれども、色々と家族間で事件が起きている)、そして主人公の鋼にしろ…みんな、原因はそこにあったのかと。通しで読むと、実はオルゴールじゃなくて、そっちがテーマだったのかと納得してしまう感じでした。推理小説としては弱いが、物語としてはいい話だった。自分も60の後半に差し掛かろうとしている両親のことをちょっと考えちゃったりしたね(^^ゞ






個人的採点:65点