七つの黒い夢 著:乙一 恩田陸 北村薫 誉田哲也 西澤保彦 桜坂洋 岩井志麻子 | 105円読書

七つの黒い夢 著:乙一 恩田陸 北村薫 誉田哲也 西澤保彦 桜坂洋 岩井志麻子

七つの黒い夢

乙一 恩田陸 北村薫 誉田哲也
西澤保彦 桜坂洋 岩井志麻子:著
新潮社 ISBN:4-10-128151-3
2006年3月発行 定価420円(税込)








人気作家によるダークファンタジーのアンソロジー集。ホラー色が強いものばかりを想像していたのだが、一概にはそういう括りができないような作品もあり…みんな個性的。作家さんによっては、かなり短めな作品もあるのだが、ある程度枚数がある作品の方が、個人的には好みかな?

この子の絵は未完成 著:乙一

幼稚園児の遊馬は、ちょっと常識外れなところがあった。そして、家族以外に知られたらまずいだろうなという、不思議な能力も持っていた…。

乙一らしい不思議なお話ですね。日常的な家庭の風景なんだけど、ひとつだけ異質な事柄が混じっていて、なんとも不思議な世界を構築している。イタズラ好きの幼稚園児を誇張して描いてるわけだけど…幼い子供に接する親の気持ちなどがよく描かれている。ただ、ダークって印象はちょっと薄いかな?ファンタジーとして、けっこう自分は爽やかだったな。確かに、物語をアレンジしていけば、もっとダークな物語にも発展していきそうだが、ふんわりとした心地よいオチになっていた。


赤い鞠 著:恩田陸

会った事のない筈の母方の祖母との思い出…。母親は「あんたが生まれたときにおばあちゃんはもう亡くなっていた」というが、確かに私には記憶があった…。

現実なのか、夢・幻なのか…という曖昧な世界。なんか、押井守の実写映画を見ているような感覚に近いかも?


百物語 著:北村薫

サークルの飲み会帰りに、後輩の美津子を送り届けるよう、押し付けられてしまった安西。偶然、一夜をともすことになった2人は、ひょんなことから百物語を始めることに…。

百物語を題材にしているので、最後に何かが起きるのだろうと…。もっと直接的な表現で変化を見せてくれたら、衝撃度が増しそう…。


天使のレシート 著:誉田哲也

高校受験を控える…中学生の伸輝はあることで悩んでいた。学校からの帰り道ち、憧れのコンビニ店員“天使”さんと偶然遭遇し、彼女に悩みを打ち明けることになったのだが…。

一番、ダークファンタジーだなぁって感じられる作品だったかな。顔はしょっちゅう会わせるのだが、会話らしい会話なんかしたことがない綺麗なおねーさん。そう、コンビニ店員に憧れている中学生のお話。日常で生活していると、大人になってからでもこういうことって、しょっちゅうあるあると思いながら、けっこう感情移入してしまう。で、そのおねーさんと、なんと親しく会話できるチャンスが到来したんだけれども…それが実は、とんでもない出来事への幕開けだったと。人生なんか、生まれたときから神様に勝手に決められているのかな?そう簡単に軌道修正なんかできないよなぁ~って思ってしまう。甘いお饅頭かと思って食べたら、中身は山葵だったという、バラエティ番組の罰ゲームみたいな印象の作品。やっぱり、これが一番ダークファンタジーに相応しいっす。



桟敷がたり 著:西澤保彦

正月休みで実家に帰省していた大学生の下瀬沙里奈は、東京へ帰るため羽田行きの飛行機に載っていた。しかし、二日酔いでウトウトしていた沙里奈が眠っているうちに飛行機はドラブルで元の飛行場に逆戻りしていたのだ。一旦、飛行機から下ろされてしまった沙里奈は、チケット変更が面倒なので、自分の乗る飛行機の運行再開をロビーで待つことになったのだが…次々と不思議な事が起きる。

物語的には一番、起伏に富んでいた。さすが推理作家らしく、一部の謎を正攻法で解き明かしてみたりするんだけれども…真相が明かされたことにより、悪意が滲み出てくるという構成。主人公の沙里奈が真相にたどりつくきっかけになる、推理合戦の前後の展開が、なんか唐突であり、そこがファンタジーらしさになっているのかなと思ってみたりもする。


10月はSPAMで満ちている 著:桜坂洋

人材派遣会社に登録し、IT企業だと言われて向かった先は、どうみても怪しげな会社だった。仕事の内容は、スパム用の宣伝文を書くこと。ぼくは、従業員がたった2人しかいないその会社で…坂崎嘉穂という、どこか秘密めいた女性と遭遇した…。

この作家の「スラムオンライン」というオンラインゲームにハマった大学生の話を描いた長編を読んだことがあるのだけれども、今回もネット社会らしい現代風のお話。スパムメールの文章を考えている会社っていうのが、今風で面白いね。若干、ゲームのマニュアルみたいだった「スラムオンライン」に比べ文章力もよくなっている。他人にはどうでもいいような些細な事件を、ミステリー風に解き明かしていくのだが、全てを達観しているような嘉穂と、踊らされている“ぼく”の関係が良い。まぁ、これもダークじゃないなぁって印象は強いけど…雰囲気は好き。


哭く姉と嘲う弟 著:岩井志麻子

嫁いだ姉が里帰りし…弟の僕は、かつて姉と過ごした懐かしいな日々、姉から聞かされた数々の淫靡な物語を思い出すのだが…。

姉に惚れているのか?姉とただならぬ関係があったのか?と読ませておいて…最後にひっくりかえるんだけれども、何かが物足りない。


乙一、誉田哲也、西澤保彦、桜坂洋は…そこそこページ数もあり、短編でもなかなかの読み応えがあって面白かった。残りの三氏の作品はページ数も少なめで、特に恩田、岩井両氏の作品に関しては、想像で補うような幻想的な物語なので、いささか物足りなさは感じる。

自分は古本屋で105円で見つけたけど、定価でも420円とさして高くないので、好きな作家を読むついでに、作家を開拓する試し読みみたいなことができるのは良いのでは?






個人的採点:70点