死者の体温 著:大石圭 | 105円読書

死者の体温 著:大石圭

死者の体温

著:大石圭
角川書店 ISBN:4-04-357207-7
2004年5月発行 定価620円(税込)










大石圭のホラー小説、「死者の体温」を読んだ。もともとは1998年に他社からハードカバーで出たものが、角川のホラー文庫で再登場になった。裕福な家庭で育った…普通の人間が、実はとんでもない連続殺人鬼だったという…後に書かれた「殺人勤務医」や「湘南人肉医」と似たテーマの作品。キャラクターの違いはあるが、特に「湘南人肉医」との共通項がかなり見受けられる。

エリートサラリーマンの安田祐二…学生時代には砲丸投げの選手として活躍し、人当たりもよく爽やかなハンサムだ。湘南・平塚のマンションに一人で住み、土日には父親の別荘でサーフィンを楽しむという、裕福な暮らしをしている独身。しかし、祐ニにはある秘密があったのだ…。あるきっかけで、人間の首をしめて殺すことに快感を覚えてしまい…次々と人を殺しまくっているのだ。幸いにして、まだ発覚していないのだが…父親の別荘の庭には、被害者たちが埋められている…。

ここ最近、世を騒がす大きな殺人事件がいっぱいあった。特に、この小説の舞台でもあり、自分が済んでいる地域の湘南・平塚でも残酷な事件があったので…なんだか全くのフィクションのように感じられない内容だ。きっと平塚市民の原作者、大石圭もビックリしているだろうなぁと、そんなことも考えてしまった。あの例の事件…大石圭が小説化すべきなのでは?

話は小説の方に戻る…最初にも書いたように、自分は先に読んだのだが「湘南人肉医」という、この「死者の体温」より後に書かれた作品と、けっこう共通な部分があったりする。あちらは容姿にコンプレックスを持っているようなキャラであり、こちらは全くの正反対。内面は似ているが、どちらかというと外見は「殺人勤務医」の方に似ているのかなって感じ?

殺人者の日常を綴っている話もそうだけど、他の大石作品って…描いてる事は、残酷でグロテスクなんだけど、なんだか読後感が意外と爽やかな気分にさせられたりすることがあるのだが、今回はちょっとへこみ気味になった。それは、主人公が再三、人生なんて、はかなくて短いんだって説くんですよ。30歳という年齢で、自分と同世代の主人公がね…人間なんてあっという間に死んじゃうんだよって語っているとさ…チャランポランな生活を送っている自分には痛く感じたわけですよ。被害者を殺す前に…どんな人生を歩んできたのか、聞き出すのが趣味なんだけど、「お前は30年間、何を考えて生きてきたんだ?」って、こちらが訊かれているような気分になるのね。それに応えられない自分が、もう嫌で、嫌で、惨めな気分になってきたんだ。うーん、けっこうブルーだ。






個人的採点:65点