紅玉の火蜥蜴 著:秋月涼介
- 紅玉の火蜥蜴
秋月涼介:著
講談社 ISBN:4-06-182372-8
2004年5月発行 定価1,029円(税込)
秋月涼介はデビュー作から全部読んでいる。これで3冊目になるけど…前回は、キャラクターが違う独立した作品だったが、今回はデビュー作「月長石の魔犬」の続編となる。「月長石の魔犬」で未解決だったあの事件も出てくるし…1作目ではクライマックス近くにならなきゃ分からなかった、とある秘密も、読者には周知の事実として物語は進んでいくので…間違っても、この作品から読んではいけない…と、老婆心ながら伝えておきます。
数多くのカバーデインを担当していた辰巳四郎氏が亡くなってから…やたらと各社のノベルズ本の表紙が、萌系イラストになってしまい、正直面食らうことが多いが…この作者も到底、同一のシリーズとは思えない、表紙デザインの変更に驚きが隠せなかった。新刊で本屋に平積みされている時…まさか「月長石の魔犬」の続編だとは思わなかったもんね。
世間を騒がす連続放火事件にとうとう死傷者が出てしまった。しかも被害者は、身体の自由を奪われ…焼き殺されたという…明らかに他殺と見られる状況だ。さらに事件はエスカレートしていくなか、未解決のまま迷宮入りしていた連続爆弾魔の犯行に酷似した爆破事件まで起きてしまった。嘱託解剖医の嘉神沙遊良、キャリアの女警視・鴻薙冴葉、石細工屋店主の風桜青紫と店のアルバイト店員・鴇冬静流など…お馴染みの面々が事件の渦中に巻き込まれていく。
前作、このシリーズではない「迷宮學事件」は192ページという薄さだったのに比べ、倍の370ページに膨れあがった今回の作品。読み応えはかなりあった。誰もが犯人に該当しそうな…怪しげな生い立ちが隠されていて、一筋縄ではいかないし…その容疑者になる人間は…みんな火災により、なんらかのトラウマを抱えているという、似たような境遇の持ち主なのだが…時々、キャラクターの区別がつかなくなったりもする(笑)探偵役となるレギュラーキャラクターたちの挙動も相変わらず怪しいし…。 疑りだすときりがない。
洋画の「バックドラフト」に、ちょっと似ていたかな?それなりにどんでん返しの真相も用意されていて…けっこう楽しめる。犯人がわかった後でも、最後まで飽きさせない趣向が用意されていたり…けっこう工夫はされている。
「月長石の魔犬」でも同じ手法がとられていて…度々同じシーンを…キャラクターの視点を変えて繰り返し描くというようなことをやるんだけど、これだけ分厚くて、なかなか物語が進まないのだから適度な文章力で…無駄を省いてくれると、もっと読みやすいと思うのだが…。まぁ、丁寧で分かりやすいことは分かりやすいんだけどなぁ…。
前の作品から続いている…悪夢の爆弾魔“ナイトメリッシュボマー”VS見えざる左手切断魔“インビジブルレフトハンドハンター”の方はまだまだ決着がつきそうもなく…その全貌も明らかにされない。切断魔があの人と分かってるんだから…爆弾魔の方はあの人かなって、きっと多くの読者が思っているんでしょうね。これが分かった時が、決着がついた時がこのシリーズのラストなんだろうなぁ。いつまで続くか…。
個人的採点:70点