さみしさの周波数 著:乙一

乙一:著
角川書店 ISBN:4-04-425303-X
2003年1月発行 定価480円(税込)

乙一は、他の作家とのアンソロジー集で、短編を1作品読んだことがあるだけだったのだが…なるほど最近の若手作家と呼ばれる人の中では、確かに筆力がずば抜けている。人気があるのはうなずけます。今回も短編作品だが…収録されているどの作品をとっても物語の独創性・構成力、キャラクター創作、人物描写…とっても秀逸。何よりも物語に引き込む文章、語り口の上手さに長けているのが一番のポイントか?短編なのと、上手すぎる分、オチが分かりやすいということが挙げられるが…とにかく面白かった。
「未来予報」
未来を予測する同級生に「お前ら、いつか結婚するぜ」と言われた、幼馴染の男女。友だちのインチキくさい予言がずっと心のどこかにひっかかる、思春期から大人へと成長していく少年の物語。
この作品の主人公と10歳近く年が離れているのだが(作者ともけっこう年下だし)…境遇などにかなり共感できてしまった作品。周りに置いてきぼりにされるような間隔…この虚しさ。物語の内容も結末も非常に切なかったのだが…主人公の紡ぎだす言葉が、自分が言われている言葉のように感じてしまったほど、ちょっと痛かった。
「手を握る泥棒の話」
旅館に泊まっている金持ちの伯母から、大金入りのバッグを盗もうと…外の壁に穴をあけて、バッグの締まってある押入れに手を突っ込んだら…なんとつかんだのは人間の手だった!?
あらすじだけ読むと…ホラーっぽいものなのかと思いきや、マヌケな犯罪サスペンスだった。オチも綺麗に決まって…4作品の短編の中で、一番、エンターティメントとして単純に楽しめた作品。
「フィルムの中の少女」
少女の死体が見つかった場所で、撮影された大学の映画サークルのフィルムに…女の幽霊が写っていた?
“私”という大学生らしき女性が、怪談めいた話を作家に語っていくという一人称の構成。ホラー的な怖さもあり…少女殺しの犯人を探すというミステリー的な要素も含まれている。
「失はれた物語」
交通事故に遭い、身体は動かせず、視覚・聴覚・味覚なども失ってしまった男と妻の物語。唯一、残った右腕の感覚だけを頼りに…コミニケーションをとっていくという内容。
夫婦感の情というものが、どういうものかよく描けている。若手作家の書くような内容じゃないよね…と感心しながら、読んでしまった。
短編中心の執筆が多いようだが…長編作品をぜひとも読んでみたい。個人的には、一番はじめに収録されていた「未来予報」と、「手を握る泥棒の物語」がお薦めかも。
個人的採点:75点