「さて、と。じゃあ、俺はこれで。もう帰って寝るよ。」
「はい。本日もお疲れ様でした。」
「お疲れ様。キョーコちゃんもお疲れ様。……二人とも、本当に疲れる前に帰るんだぞ。特に蓮!!キョーコちゃんは天然記念物なんだから、それを滅ぼすようなことはまだ早いということを肝に銘じて、細心の注意を払い、接するように!!」
「………分かっていますよ。大丈夫です。」
「お前の大丈夫は超不安!!でも、お前を信じて俺は帰る!!」
「ありがとうございます。」
なんだかんだといいながら、社さんも俺を信用してくれている。超不安と口にしながらも、駐車場へ向かおうとする歩調に偽りはなさそうだ。
ちなみに俺の腕の中には、「社さん!!社さん!!後生です、帰らないで!!」「私を助けて~~~!!」と、助けを求め続ける最上さんがいる。
そのあまりの必死さを客観的に見てみると。
まるで彼女を抱いている俺は魔王で、社さんが勇者のような図だ。
……最上さん。君を抱いているのは君だけの王子で勇者だし。
君の言葉を完全無視して帰る気満々な男は、その王子で勇者の俺の少ない仲間の一人だから。
助けを求めても無駄だよ。
「お~い、蓮!!もし無体を強いたと分かれば、即刻キョーコちゃんとの時間をなくすことにするからな~!!だから!!くれぐれも!!取り扱い、注意だぞ~~~~~!!!」
「……承知いたしました。」
しかし、あまりに助けを呼ぶ姫君をかわいそうに思ったのか。
角を曲がり切る直前で、社さんは振り返り、俺に釘を刺してみせた。
そういわれれば、もはや度を越した邪な想いは消えてなくなる。
むろん、彼女の全てを…心身ともに得たいとは思っている。
けれど、会えないことのほうが困るのだから、その時間を失われると思えば、自制だってできるというものだ。
しっかりとうなずいてみせると、満足そうに微笑んで、社さんは今度こそ去っていった。