なんて、浅ましくて愚かな考えか。
いつの間に、こんなに貪欲になってしまったのだろう。
姿を見るだけでよかったのに。
その視界の片隅に入るだけでよかったのに。
少し会話をするだけでよかったのに。
笑いあえるだけで、よかったのに……。
特別だと思う気持ちが相手に見えてしまうほどに。
私は、愚かな行為を犯していたのだろうか。
滲む視界の先。
その先で、切れ長の瞳が、大きく見開かれる。
―――どうか、気づかないで……―――
願うけれど、泣きそうになっている私を見れば、一目瞭然だろう。
思わず真実を悟っているだろう彼を視界から追い出したくて目を閉じた。
ツーッと頬を伝う暖かな雫に、絶望する。
「………ごめんなさい……。」
目の前の愛しい人は、先ほどから私に対して何度も謝罪の言葉を口にしていた。
でも、謝らなければならないのは私だ。
邪な想いで、尊敬すべき人を汚した。
彼に向けられる信頼に応えることができなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……。」
こんな日に。
誕生日の前日に、絶望することになるなんて。
人生最後の17歳の日に、こんな経験をするなんて、私はどこまで運の悪い人間なのでしょう。
せめて、これ以上の関係悪化を防ぐためには、もう謝ることしか私にはできない。
「最上さん………。」
「ごめんなさっ……!!??」
ひたすら謝罪の言葉を口にする私をどう思ったのか。敦賀さんはゆっくりと私の名前を囁くように口にすると。
突然、とらえたままの私の右手を引っ張った。
「……………。」
「……………。」
力強く引っ張られ。ソファから問答無用で引き離されて。
どうなることかと思っていたら、とてもいい匂いのする、暖かなぬくもりに包まれた。
ちょっと固いけれど、安心する香りにほっと息を吐きだしかけて…固まる。
「………あの…敦賀さん………。」
「……………。」
どうやら先輩俳優に抱きしめられているらしい現状は理解した。
理解したけれど、どうしてこうなったのか分からない。
「ちょっと離していただいてもよろしいでしょうか?」
「……………。」
これから信頼を裏切った後輩として呆れられ、蔑まされ、置き去りにされる運命だったはずなのに、号泣した時と同じく抱きしめられているとは……これいかに?
そう思い、現状を冷静に、正確に理解するためにとりあえずの解放を促す。
「っ!?い、痛い、痛い、痛い!!ぐっ!?く、苦しい……!!つ、敦賀さっ!!」
それなのに、逆に私の身体に巻き付く腕は徐々に拘束を強めていき、痛みを感じて叫ぶまでになれば、今度は厚い胸板とプレスされそうな勢いで圧迫された。
こ、これはもしや、新たなプロレス技か何かを仕掛けられているのかしら!?
これはお仕置き!?お仕置きなの!!??
……そういえば昔、よくショータローに仕掛けられて、泣いたことがあったわ。
泣いた私を見て、こっぴどく怒られたショータローの顔が、あの時は苦しかったけれど、今になって思えば最高の絵面……って、もしかして、私、今走馬燈のように昔を振り返っている!?
え!?私、このまま圧死するの!!??
「………最上さん………。」
死を覚悟しかけた私の耳元で、熱い吐息交じりに囁く敦賀さんの声が響く。
その声があまりにも甘く、熱をはらんだ声に聞こえたので、死へと向かいかけていた魂が一気に戻ってきた。
「ひゃいっ!!!」
あまりの艶めか妖しいお声に、全身が緊張する。
本当は飛び跳ねるほどの勢いがあった反応だったけれど、圧迫されているので跳ねることはできなかった。
その代わり、裏返った変な声が喉から飛び出る。
「まさか、こんなクリスマスプレゼントがあるなんて………。」
「え?プ、プレゼント?」
「最高のプレゼントを、ありがとう。」
「??????」
プレゼントなんて、用意しておりませんが…。というより、もらったのは私、ですよね……?