「…………うぅっ、うううううっ……。」
自然と口から洩れるのは嗚咽。止めることなどできない涙を流し続けながら、私は茶封筒から出てきた、几帳面な字で綴られた日本語の文面を読み進める。
そこには。……今、日本で芸能界1イイ男と呼ばれる男からの…私に対する恨み、つらみが綴られていた。
娘を可愛がって何が悪い!!娘に愛されて何が悪い!!娘に父の日のプレゼントを貰って何が悪い~~~~!!
彼が綴る私への苦言は全て、ドロドロとした嫉妬にまみれ、八つ当たりをしている内容のものばかりだ。そんなものが30ページにも及ぶA4用紙にびっちりと書き込まれている。
心の中ではいくらでも言い返せても…。…『彼』を他人として完全に見切ることができない私には、口に出して彼を非難することはできない。涙を流しながらその文面を追うことだけが関の山だ。
「うううぅ~~~~!!」
だが、最後の1枚に行く前にとうとう限界に達し、私は便せんに顔を埋めてしまった。
―――あんまりだ、ひどすぎる…なんでこんなに私は彼に嫌われなきゃならないんだ!?一体私が何をした!!―――
決して悪いことはしていない。むしろ悪いのは『敦賀蓮』のほうだ。彼がここまで私の娘を重苦しくも盲目的に愛しているとは思わなかった!!ここまでくると本当に病的なものを感じる!!病んでいて禍々しいにもほどがあるぞ!!
「敦賀蓮~~~!!」
ここで私は悲しみを乗り越え…父として、私の娘に危険すぎる愛情を向ける男の恋路の邪魔をすることを胸に誓う。
……お前なんて、お前なんて、キョーコにこっぴどくフラレてしまえ~~~!!……
敦賀蓮へ向けて呪いを飛ばしてやろうと思いながらも読み進めた手紙の最終文面。
だがしかし。…そこには思ってもいない言葉が綴られていた。
『……このように、俺にとっては邪魔なだけのあなたですが、彼女にとってあなたは大事な『父親』です。そのことは俺も充分承知しています。あなたの愛で、彼女が幸せそうに微笑むのを何度も見ていますから。親の愛を知らない最上さんには、あなたの重苦しいほどの愛が幸福の元になっているのです。だから、今日は彼女の父であるあなたに、感謝の気持ちを込めてこれを贈ります。彼女のお酒と一緒に召しあがって下さると幸いです。……』
「っ!!今の、なし!!フラレてしまえ、とかなし!!取り消してくれ~~!!」
最後は私への丁寧な感謝を込めた文面が綴られた手紙を読み終えた瞬間。私は敦賀蓮からの手紙の29ページ、4行目でかけた彼への呪いを撤回すべく、大声で叫んだ。
「……ありえない……。」
1人叫んだ後。偽っていようとも、本当は『愛息子』である青年へ、呪いの言葉を唱えた自分自身が信じられなくなった。
私は手紙の最終ページである30ページ目を見る。それは、変装しているものの、敦賀蓮とキョーコであることが分かる若い男女が、幸せそうに微笑んでいる写真のカラーコピーだった。
こんなに幸せいっぱいといった笑顔を浮かべている二人に、私は……!!
「すまん……敦賀君…クオン……キョーコ……。」
私はその日、ジュリが仕事から帰って来るまで、そのままソファで鬱々と凹み続けていたのであった。
……そして、その1年と数ヶ月後。私の呪いの結果かどうか……キョーコを捕まえるために努力を始めた『クオン』の行動を悉く邪魔するジュリの手伝いをしながら…。
私は彼の父として、せめて『敦賀蓮』と『クオン』が、キョーコにこっぴどく振られないことだけを切実に願っていたのだった。