ふぁざ~ず☆でぃ特別編~真実のラベル(2)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

俺はもはや彼らの様子を無視することができなくなり、じっくりと観察を始めた。…幸い他にお客様もいないし、店長も外出している。



「……あっ!!」

「ん?どうかした?」

「こっ…これは……!!」



 男が披露する酒の蘊蓄を、感心した様子で聞いていた女性。彼女は日本酒のコーナーにくると、キョロキョロと銘柄を確認し始めた。最初は男と共に京都の酒蔵のものを見ていたが、突然大声を上げるとピタリと歩みを止める。



「敦賀さんっ!!これ、すごいですよ!!」

「え?何?」

「これは、とある島で作られているものなんですが、ほぼ地産地消で、市場に出回ることがほとんどないとされている幻の大吟醸です!!」



 女性が大興奮で男に突き付けている深みのある青い瓶。



「へぇ…そんな名品なんだ?」

「それはもう!!芳醇な味わいと香り!!上品な口当たり!!のどごしも最高なんだそうです!!」



 「大将が言うんですから間違いありません!!」と断言する少女の瞳は、キラキラと輝いている。



「これっ!!これにします!!この720mlなら私でも買えるし!!きっと先生も気に入ってくださいますよ!!」

「そうだね。…というか、今更だけど、『先生』なんて呼んでいたら怒られるよ?」

「うぅ…。えぇっと…じゃあ……。お。おおおお、お父さんっ!!」

「うんうん、よく言えました。」



 クスクスと楽しそうに笑いながら、頬を赤らめ、照れながら『父』の名を呼んだ女性の頭に触れる男。

微笑ましいと言えば微笑ましい画なのだろうが…。…やっぱり違和感があるな、あの二人……。



「何をやっているのかな?木崎君。」

「!?店長!!」



 棚の影から二人の様子を見ていた俺の背後から、この店を任されている長が現れる。御年70だが、10歳は若く見える店長は、にこにこと穏やかな笑みを浮かべながら俺の肩を掴んできた。



「ほほ~…変わったお客様だ。」

「…そうなんです。怪しいので見ていたんですが…」

「ふんふん……。なるほど……。」



 「怪しいので見ていた」、というのは事実だが、警戒していたわけではない。むしろ俺の興味本位での『観察』だった。だが、そんなことを職務中の俺が正直に話せるわけがない。



「お客様方。」

「「はい?」」

「よろしければ、お写真でもいかがですか?」



 言い訳を考えていた俺の横から優雅に移動した店長は、妙な客のところへ近付くと、これまた妙な提案をする。



「え…?」

「木崎君。撮ってさしあげて。」

「あ…、は、はい!!」



 戸惑ったのは客人である二人もだけれど、俺も同じだった。だが、この店では長からの指示は絶対。俺はすぐさまデジタルカメラを持って戻った。



「取りますよ~。はい、チーズ!!」



 俺がカメラを向けると、先ほどまでの戸惑いが嘘のような笑顔を浮かべてこちらに視線を向ける二人。幸せそうなその笑みは、釣り合いのとれていない男女なのに、お似合いのカップルに見えてしまう。



「どうぞ。お受け取りください。」

「「ありがとうございます。」」



 すぐさまプリントアウトして二人に渡すと、顔を見合わせ、にっこり微笑み合う。彼らは俺の手から写真をそれぞれ受け取った。



「データは後ほど消去しておきますので。ご安心ください。」

「…ありがとうございます。」



 何もかもを分かっているような店長と、それを察したかのように礼を述べる男。…だが。俺には何一つ分からないし、取り残されている気がする!!



「あぁ、それから。こちらはおつまみも置いていましたよね?それなら……。」

「えぇ、ございますよ。準備いたしますのでお任せください。」

「ありがとうございます。助かります。」



 突然意気投合したかのように小声で話し合う店長と怪しい男。何を話しているのか知りたかったが、俺には二人の声は部分的にしか聞こえなかった。



「それじゃあ、最上さん。帰ろうか。どうもありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。どうぞ今後ともご贔屓に……。」

「!!ありがとうございました!!」



 店長との交渉(?)が済むと。男は女性が選んだ酒を購入し、彼女をエスコートして優雅な物腰で帰って行った。

 それを俺と店長は最敬礼でお送りする。



「……あの。店長。」

「木崎君。君は実に人を見る目もあるし、酒に関する知識も深い。」

「……はぁ。」



 二人が去った後。俺が口にする前にその言葉を遮って、店長は穏やかな声で語る。



「だが、君は先入観にとらわれすぎる。…人を見る時はね、酒を見る時と同じように…ラベルだけ見ていたらダメなんだよ。」

「え……?」

「……まぁ。そのうち分かる。君なら、ね。」

「…………。」



 店長の様子から、これ以上語ってくれるつもりがないことは分かった。だから俺は気持ちを切り替えて仕事に戻ったのだ。



 そして俺が、この後時々現れるようになった不思議な二人の真実の「ラベル」に気付くのは。

 芸能界1イイ男の、同じ事務所の人気タレントとの初スキャンダルが報じられる、少し前のことだ。






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