※この作品は、昨年の父の日に作成した『ふぁざ~ず☆でぃ』および先日までの連載、『姫を守るは…』のネタが若干含まれています。単独でも読めるものになってはおりますが、よろしければ『ふぁざ~ず☆でぃ』、『姫を守るは…』を読まれた後に読んでいただければ幸いです
「どうして…。どうしてママには何もないのよ~~~!!」
愛しい妻がそう叫んだのは、5月初旬のこと。
突然の大絶叫に、私は驚き、彼女がいるリビングルームへと急いで走った。
「どうした、ジュリ!?」
そこには。ボスから送られてきたDVDの中でも、一番のお気に入りとなっている…『キュララ』のCMが大画面に映し出されており。
その前で、涙を流しながらクッションを叩くジュリの姿があった。
「私だってこんなに…こんなにキョーコが好きなのに~~!!」
「お、おい。ジュリ……。」
バス、バス、と大きな音を立ててクッションで床をひとしきり叩いた後。彼女がお気に入りのシーンになる前にガバリと身体を起こし、テレビに光の速さで近付いていく。
「キョーコ……。可愛い私の娘……。」
「ふぅ…」と切なげな吐息をもらし、涙に濡れた瞳で、キョーコがジュース片手に嬉しそうに走り回るテレビ画面を見つめるジュリ。
「一緒にご飯を食べて、一緒にお買い物に行って、一緒にお風呂に入って、一緒に眠って、「ママ、大好きよ」って…!!言って欲しいのに~~~~!!!!」
「この距離が憎い!!憎いわ~~~!!」と今度は液晶画面を叩こうとするから、私は慌てて彼女を止めに入った。
「ジュ、ジュリ!!落ちついてっ!!」
「あなたには分からないわよ~~!!あなたなんて、あなたなんてっ!!」
後ろから液晶を殴ろうとした両腕を止めて、彼女を腕の中に収めようとする。だが、興奮し、涙を流す美しい私の女神は、今度は私の胸を叩き始めた。
「どうせ日本に行った時に!!一緒にご飯を食べて、一緒にお買い物に行って、一緒にお風呂に入って、一緒に眠って、「パパ、大好きよ」って、言われた癖に~~~~!!」
「いっいや…。ご飯は確かに一緒に食べたが、その他は私だってしていないよ。」
一緒に風呂と寝る事は、多分今後もできないだろう。彼女を本当の娘のように思う私に邪な感情は全くないのだが、そんなことをした瞬間に私を抹殺すべく登場する男がいることを、私はすでに知っている。…しかも、その彼は、私を瞬殺することができる男なのだから、どれほど親子の『スキンシップ』として望んだところで叶えられるものではない。
「ずるい~~~~!!なんでいつもいつもいっつも……!!あなたばかり~~~~~!!」
「お、おいおい、ジュリ……。」
「うわ~~~ん!!」と子どものように泣きわめく彼女を何とか宥めようとするのだが、いくら私が言葉を連ねても全く泣きやむ気配がなかった。
「私も母の日がしたい~~~!!したい、したい、したいっ!!」
「いや…だから私だって父の日にサプライズでプレゼントをもらっただけで…。」
母の日を『する』というのがどういう状況か分からないが…まぁ、彼女の発想だから『一緒にご飯を食べて、一緒にお買い物をして、一緒に…(以下、略)』という内容なのだろう。
「サプライズっ!?」
「そうだよ。キョーコもMr.敦賀も私に事前に連絡してきたわけじゃない。そうだろう?」
「そうねっ!!サプライズ!!」
突如、彼女は顔を上げ、満面の笑顔を浮かべた。
「私、日本に行くわっ!!」
「お、おい、ジュリ!?」
やっと泣きやんでくれたとホッとしたのも束の間。彼女は立ち上がると高々に宣言した。
「キョーコにママとして名乗りを上げてくる!!そして一緒にデートをするの!!」
「こ、こらこら、ジュリ!!」
「私、もう我慢できないわ!!このままじゃ死んでしまう!!」
…出た、お決まりの言葉だ。この決まり文句に、私もクオンも弱いんだ…。やれやれ、今度は一ヶ月か、二ヶ月か……。どちらにしても、マネージャーにはムリを言うことになるな。
心の中で苦笑いを浮かべながらも、どう彼女と私のオフをもぎ取ろうか考え始めたその瞬間。
「私の余命は…3秒よっ!!」
「え!?」
驚くべき宣告をされた。
彼女の余命は、私の想像以上の短さだった。
驚く私を前に、美しい私の妻はリビングルームの端にいつの間にやら用意されていたトランクケースを引っ掴んでくると、妖艶な笑みを向けてきた。
「おい、ジュリ!?」
「と、いうわけで。私、1週間オフをもぎ取ったの!!キョーコのスケジュールもボスを通じて抑え済みだわ!!日本に行って、愛しの娘とた~~っぷり、スキンシップをとってくるわね!!それじゃあダーリン、一週間後に♪」
「愛してるわ~」の言葉を残して、彼女は颯爽と家を飛び出して行ってしまった……。