外に出てみると、魔女や魔法使いの衣装着た人々が祭りの始まりを盛大に祝っているところだった。
トキはこういう雰囲気があまり得意ではなかった。それなのに、クラウドに会ってからというもの、
なぜかいつものペースを乱されて流されてしまう。そんな自分に少し自己嫌悪していた。
街の中心部に向かって歩いて行くと、昼間は普通の通りだった場所に所狭しと出店が並び、
みんな楽しそうに酒を飲んだり、踊ったりしている。
トキは、クラウドの後ろについて歩いていた。すると、前から5,6人の
女性達がやってきて、クラウドになにやら声をかけている。
「あらぁ、いい男」
「ほんとに、素敵ねぇ」
「ねぇ、私達と一緒に遊びましょうよ」
次々と女性達は甘い言葉を囁いている。クラウドもデレデレしながら誘いに乗ろうとしていた。
女性達の格好から見ても大胆な魔女の衣装で、きっとそういうことを仕事にしている人たち
なのだろうということがわかった。
「あら、かわいいボウヤ」
女性の一人がトキに気付く。
「ほんと、かわいいウサちゃんもいるのね」
かわいいと言う言葉を聞き、キラは喜んでいたが、昨日の一件のせいで
トキはそういう風に見られることを快く思えなかった。
「なぁ、トキ。せっかくの誘いだし断わるのも悪いから一緒に―――」
「僕は遠慮しておきます」
クラウドの言葉を待たずにトキが言った。
「キラ、僕はどこか静かなところに行くからクラウドと一緒に行ってきていいよ」
「えっ、でもトキ一人じゃ寂しいでしょ」
「大丈夫だよ。それに、僕はこういうのはあまり得意じゃないから」
そう言ったトキの表情を見てキラはありがと、と言いクラウドの肩に飛び乗った。
「ほんとにいいのか?」
クラウドが心配そうな表情で言ったが、トキの意思は変わりそうもなかったので
「わかった。じゃあ、また後で」
と言って女性達に連れられ人混みの中に消えて行った。
トキはどこか落ち着ける場所を捜しに辺りを少し歩いた。すると、ちょうど建物の影になった
場所にベンチがあるのを見つけ、ふぅと息を吐き腰を下ろした。
空を見上げると今夜は満月だった。薄く赤みを帯びた月がトキを見下ろしている。
少し肌寒い風が吹いている。トキはうつむき、ゆっくりと瞳を閉じた。
遠くから祭りのざわめきが少しだけ聞こえてくる。
ふわっ―――
風と共に薔薇の香りを感じた。トキが顔を上げると、そこには魔女の衣装を纏い、
エメラルドグリーンのゆるやかなウェーブの髪をした10代後半くらいの女性が立っていた。
「こんばんわ」
その女性がトキに向かって言う。
「・・・こんばんわ」
トキも挨拶を返した。
「お祭りには参加しないのね」
「にぎやかなのは苦手なので・・・」
会話が途切れる。
少しの沈黙が起こり、トキが先に口を開いた。
「あなたこそ、お祭りに参加しないんですか」
「どうしようかな」
そう言ってトキの隣に座った。その時、薔薇の香りが彼女からしている事に気付く。
「どうせ、お祭りは来年もあるから今年はめずらしいお客さんと
お話って言うのもいいかなって思ってるところ」
「お客さん?」
「うん、だって君旅人でしょう」
その女性は軽く微笑んでそう言った。トキは一瞬驚いたが、その素振りは見せなかった。
「どうしてわかったんですか」
少し警戒するように聞いた。
「あら、だってこの国では見かけない顔だもの。君みたいな
綺麗な子がいたら目立ってしょうがないでしょう」
その言葉に反応し即座に言葉を返した。
「別に僕は綺麗じゃないです」
クスッとその女性は笑った。
「そういえば君、名前はなんていうの」
「トキです」
「素敵な名前ね。私はリザって言うの、よろしくね」
トキの方を向き笑顔でそう言った彼女の髪が、風になびいてトキの頬に触れた。
月はちょうど空の真上にさしかかっていた。祭りの派手な明かりとは違い
淡いその光は二人を静かに、そして優しく包みこんでいた―――
by 沙粋