「君はなぜ旅をしてるの」
それは、リザからの突然の問い掛けだった。
「なぜって、それは・・・・・」
トキは言葉に詰まった。トキ自身、その問いに対して明確な答えを持ち合わせていなかったのだ。
ただ旅することを決めた時は、夢我無中で居ても立っても居られなかった。本当に、それだけだった。
だから、今もトキの心はどこか不安定で触れられることを拒む―――
どこか思い詰めたようなトキの表情を見て、リザはトキの頬に自分の右手で触れた。
そして、少しだけ驚いて口を開いた。
「君はまだ子どもだから、こんな話をしてもわからないかも知れない。
けれど、いつかわかる日が来ると思う。だから心の片隅で覚えていて」
トキは何のことだか全くわからなかったが、黙ってリザの話を聞いていた。
「例えどんなに強い力を求めても、その源が憎しみや怒りだけなら、それは脆く簡単に壊れてしまう。
真実の強さを求めるのなら、君は本当に大切なことに気付かなければならない」
なぜか核心に触れられるような言葉にトキは息を呑んだ。そして、目線を落として言った。
「どうして、そんなこと僕に言うんですか」
リザは少し考えていった。
「そうね。私はきっと君に同じ過ちを繰り返して欲しくないのよ」
そう言った彼女は悲しげな瞳をしていた。
そんな彼女を見て、トキは聞きたいことがあったがうまく言葉に出来なかった。
「さて、私はもうそろそろ帰るわ」
ベンチから立ち上がり、トキに背を向けた。
「あのっ、リザさんあなたは一体」
ざわっ―――
その時ひとすじの風が二人の間を吹きぬけた。そして、薔薇の香りが舞った。
雲がちょうど月の上にかかり、二人は闇に包まれた・・・
「私の事が知りたいのなら、砂漠の真ん中へいらっしゃい。あなたならきっと見つけられるはずよ。
それから、一つだけ覚えておいて世界は目に見えることだけが全てではないって事を」
そう言って彼女は闇の中消えて行った。
トキはハッとした。そして、立ち上がり彼女を追いかけようとしたがもうその姿は何処にもなかった。
「やっぱり、生きていたんですね―――」
そう言ったトキの表情はどこか切なげだったが、その瞳には光が満ちていた。
トキは宿に帰って、荷物をまとめた。キラが帰ってきたら、すぐに出発できるように。
トキの心の中は、リザの事でいっぱいだった。そして、砂漠の真ん中でもう一度彼女に
会うことができたなら聞きたいことがたくさんあった。本当にたくさん・・・
―――窓を開けてみると、月は沈みかけている。やわらかい風がトキの髪をなびかせた
少しだけ薔薇の残り香を感じた。ゆっくりと瞳を閉じ、そして少しだけ昔の事を思い出していた
by 沙粋
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