小林泰三先生へ | Stockholm

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収束


もう13年ほど前になるでしょうか。
今は懐かしいmixiで私は先生に熱苦しいお礼メールをお送りしたんです。いかに先生の作品が好きか、感動して魅力されたか、救われたかを書き連ねました。

先生をドン引きさせたくないからあのメールには書かなかったけれど、私はあのメールを送った19歳の頃に自殺未遂をしたことがありました。周りに迷惑をかけまくり、さらに迷惑かけまくったにも関わらず、私は家族含め他人の慰めや励ましの言葉すべてに中指を立てておりました。悲しいくらい誰のどんな言葉も胸に響かず、ウザったいとまで思っていました。

そんな折、たまたま読んだのが先生のデビュー作である『玩具修理者』でした。そしてその中の「酔歩する男」という作品に出てきたある言葉に脳天を貫かれました。今まで背負ってきた呪いみたいな思い込みが、ほんの少しだけ軽くなった気がしたんです。

それからの私はひたすら先生の作品を読み漁る日々を過ごしました。学生時代も、社会人になってからも、今も。そういえば後に新入社員で入社することになる東京の会社へ面接に行く道中の夜行バスで読んでいたのは『密室・殺人』でした。あの作品にも不思議の国のアリスモチーフがありますよね。長くなるから割愛しますが、その東京の会社に入れたの要因はアリスに関わることだったので、なんだか運命を感じた記憶があります。

先生の作品を読み買い続け、もう13年ほどになります。先生の作品はいつも最高でした。仕事の疲れも、プライベートの悲しみも、死という概念さえも、先生の作品を読んでいる時だけはある種すべて忘れることができました。先生の作品のどんでん返し、登場人物たちの奇妙な会話、グチャグチャドロドロマシマシ描写。どれも愛しておりました。あんなグチャグチャヌルヌルしてたのにラストの文章が美しすぎて唖然とした作品もありました(『人外サーカス』『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』等)

クトゥルフ神話の存在を知ったのも先生の作品のおかげでした。多分先生の作品を好きにならなければ、一生無縁な世界だったかもしれません。特にはじめて『本』を読んだ時の衝撃的たるや。『C市』もですが先生の描く日常がどんどん侵食されていく描写が本当に好きです。

先生の中でも大きなポイントになったのはやはり『アリス殺し』を筆頭にしたメルヘン殺しシリーズなのでしょうか?アリス殺しから先生のファンになった方をTwitterなどで見かける度、なぜか私もうれしくなっていました。メルヘン殺しシリーズは初見で楽しめるのはもちろん、往年の先生のファンにはたまらない作品でもありましたよね。
私は西中島さんがものすごく物凄くものすごく大好きなので『アリス殺し』では大歓喜しましたし、『ドロシイ殺し』は言わずもがな。読んでいてあんなに鳥肌が立った作品ははじめてでした。先生は一体いつから、どうやってあんな構想を練っていたんですか?

まだまだお伝えしたいことがあります。なんなら先生の全作品それぞれ感想文を綴ってお見せしたいです。
というか先生、メルヘン殺しシリーズ完結してませんよね?井森くんは今度こそ亜理ちゃんを救えるのですか?私アホなので時系列が頭の中でグチャグチャ気味なんですけど!先生!

そして何より先生、奥様とお子さんとワンコを残していかないでくださいよ。あれ、先生わんちゃんも飼ってましたよね?奥様のすすめで書いた小説でデビューするとかもうなんか小林ファミリー最高!奥様最高!などと私は勝手に長年思っておりました。

本当に…先生いつから闘病してたんですか?毎年すごいスピードで、特に近年の先生は一読者の私でも働きずでは寝てらっしゃる???ってくらい出版されていたので、本当に信じられないんですが。ニュースを見た夫に「小林先生亡くなったみたい」って言われた時も「違う小林さんでは??」って思わず言ってしまったですし。ファンも、先生の作家仲間のお友達も、みんな信じられないようで困惑してらっしゃいますよ。先生はいろんな方に愛されていたんですね。わかります。先生は聡明でお優しいですから。
冒頭で書いたメール、先生はお返事をくださいましたよね。先生は覚えてらっしゃらないかもしれませんが、なんとなく私の熱量を察したのか優しい言葉をかけてくださいました。

私が先生とやり取りしたのはその1度きりです。サイン会も、トークショーも、行きたかったけど行けませんでした。
恥ずかしくて。
ガチで好きすぎて先生と対面してたら「すすすす好きです!!!」みたいな語彙力0になることが予想されたので…生き恥を晒すのはやめようと思って…私普段は一応人と話す仕事をしているのですが、私にとって先生は命の恩人?新たなものの見方を教えてくださった師匠的な?そんな感じのポジションにいらっしゃる方なので、あの…今この文章を書いているだけで恥ずかしくなってきました。

なんだか取り留めのない話しで申し訳ありません。数時間前に先生の訃報を聞き、全く眠れずに今文章を綴っております。いや本当に先生、本当に?まだ私は観測してないから収束してないとか言っちゃダメ?私この先どうすればいい?って思いながらさっきまでトイレで泣いてしまいました。勝手に、本当に勝手に、あと30年くらいは先生の新刊を楽しめる日々が続くと思っておりました。私は今32歳なので人生の3分の1くらい先生の作品と過ごしてきました。もう先生の作品を読むのは習慣なんです。かつてはいろんな作家さんの本を読んでおりましたが、今も買い続けているのは先生の作品だけです。
私の人生で一番好きな作家は小林泰三先生です。

先生、本当にあ…いや…ありがとうございました、とか過去形にしたくないです。やっぱり嫌です。
天獄にも本屋ってあるんですかね?先生にはゆっくり休んでいただきたい気持ちがとても強いのですが、また、あちらでいつか先生の新作を読ませてください。

ご冥福をお祈りします。



追伸
先生、私この前、断捨離をしたんです。
本もあらかた処分したのですが、先生の本はやっぱり1冊も捨てれませんでした。なぜ断捨離したかと言いますと、実は私、妊娠いたしまして。巣作り本能と言うのでしょうか?子どもが生まれる前に諸々片付けたい気持ちになったんです。私はいわゆるオタクなのでコレクションしたものを捨てるのは通常の状態でしたら苦行、と言うか無理なのですが、今はなんかホルモンが出てるんですかね?どんどん手放すことができるんです。あとで後悔しそうですが、都内の狭い部屋で3人暮らしするには仕方ないと言い聞かせながら。
そんな精神状態でも先生の本は絶対手放す気がなくて自分でも少し笑いました。大好きであると同時に、私のアイデンティティと言いますか、先生の作品は私の心の中のおおきな部分を担っていて、なんかもう捨てるとか手放すとかできない存在なのだと思いました。
だから何やねんって話しですみません。
ちなみに、ちょうど11月24日の健診で性別がほぼ分かったのですが、女の子らしいです。手児奈、夕霞、礼子、礼都、亜理…先生の作品に登場する女性キャラクターのことを、なんだかふと思い返しました。みんな大好きだなぁ。






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11#26#02#01
妊娠中に夜更かしは宜しくないと思ったのですが、書かないと寝れないと思ったので今の気持ちを書きました。なんかもう小林先生への思いしか湧いてこなかったのでそのまま書いた。気持ち悪いかもしれないし、誤字脱字がすごいと思いますごめんなさい。いつか落ち着いたら私の小林作品コレクションを写真に撮ってのせたいと思ってます。あと今まで書いた先生の作品の感想文も纏めたいと思います。誰かの為じゃなくて自分の為に。一旦寝ます