以前というかちょうど去年の今頃の季節に、東京は両国の江戸東京博物館において開催中の < 五百羅漢 > 展に関連する記事をエントリーした事がありましたが ( 記事はこちらから ) 、今日はその羅漢絡みで敷衍したお話を一つしてみようかと思います。


 今では日本の一般社会においても 《 気功 》 と言えば健康法の一種として社会的に認知されつつあるようになりつつあるのかと思いますが、この気功法なるものも実は一筋縄でいくものではなく、一口に気功法と言ってもその具体的な中身は千差万別、一説には三千もの流派があると言われる事もあるほどであります。


 気功三千流というのは白髪三千丈的な中華特有の過大表現かとも思うのですが、それにしても実際に気功法の具体的な中身は様々にある事も事実ではあります。


 そんな中でも 《 羅漢功 》 と呼ばれる気功の流派・・・、というか功法が、一部の気功マニアの間では古くから知られているところでもあって、今回は冒頭でも述べたように 《 羅漢 》 つながり・・・という事で、この羅漢功と呼ばれる気功法についてエントリーしてみることにします。


 現在では 1999 年のいわゆる 《 法輪功事件 》 なる一件から事情は一変してしまっているのかとも思われますが、かつては中華本土においても気功法なるものが盛んに発掘・再開発されていた時期がありまして、それとリンクする形で日本にも中華本土から中国人気功師が来日されるとともに様々な気功法が紹介され普及されていた時期がありました。


 現在では、中華本土においては 1999 年の 《 法輪功事件 》 の勃発以降、気功を集団で練功したり教授したりする事は禁止されるとともに伝統功法の中のいくつかをピックアップして中央政府公認の委員会のもとにそれらに対する技術的な面にまで踏み込んでの再編集が行なわれているらしく、日本においても伝統功法とともにニューウェイヴ功法も含めての気功法の紹介はほぼひと段落して、中国人気功師による教授から日本人気功師による普及の段階へ入るとともに、大陸の動きに連動する形での制定功法 ( 健身気功法 ) の紹介という段階に入っているようであります。


 《 法輪功事件 》 が起きる以前の日本における伝統功法の紹介・普及期においては様々な中国人気功師が日本を訪れてそれらの老師によって様々な気功法が紹介されていたわけなのですが、その中の一つに 《 少林内勁一指禅 》 という気功法がありました。


 この気功法は、後に 『 気マガジン 』 と改称して気功専門誌的な存在となった 『 合気道マガジン 』 に連載されていた 「 新・気の医学 」 という気功エッセイの中でたびたびその名前が紹介されていた秦渝生しんゆせいさんという中国人気功師の先生が伝えていた功法でもあって、その関係からもこの少林内勁一指禅という気功法は日本では気功普及の比較的に初期の段階から多くの気功マニアの方々に知られていた功法の一つであったという事ができるのかと思います。


 この少林内勁一指禅という気功法は、基本的に站樁たんとう功と呼ばれる功法のみから構成されていると言っても良いほどのもので ( もう一つの特徴に手指板動法と呼ばれる特殊な技法も伝承されてはいますが ) 、それは上級功の段階に進んでも基本的に姿勢が異なっているのみでその趣旨は站樁にある事に替わりはないものであります。


 そして、この少林内勁一指禅の上級功として伝承されている特殊な姿勢における站樁功が、特に 《 羅漢功 》 と呼ばれているのだそうでありまして、そこから今回羅漢つながりという事でこの気功法に注目してみたわけであったりもしているわけでありますね。


 上級功として羅漢功を伝えているというこの少林内勁一指禅 ( 人によっては少林内勁一指禅という名称を名乗らずに直接に羅漢気功と名乗っている場合もあるようです ) が日本に伝えられた経路にもいろいろあって、日本では前出の秦渝生さんという先生に教えを受けた方が多く活動されているようなのですが、この秦渝生さんとは異なる王瑞亭さんという中国人気功師の先生の伝える少林内勁一指禅の体系では 《 熱身法 》 と呼ばれる功法も伝えているらしく、その指導の風景が You Tube に投稿されているようでもあります。


 中国人気功師の先生が伝える蕨阿水老師に起源する同じ少林内勁一指禅といっても、それぞれの先生によって若干の風格の違いがあるのみならず、具体的な功法にまで違いが出てくる場合もあるようで、この 《 熱身法 》 という功法は王瑞亭師の系統に特徴的なもののようであります ( そう言えば、これはかつて 『 武術うーしゅー 』 という中国武術専門誌々上においても記事として公開されたことがありました ) 。


 ・・・、という事で、 You Tube に投稿されていた、この少林内勁一指禅を伝える複数の伝系の中でも蕨阿水老師→王瑞亭師という伝系アップ・ラインにおいて伝えられた 《 熱身法 》 という功法の伝授風景を撮影した動画をここに貼り付けておきます。



 基本的に少林内勁一指禅という功法は、前述したように站樁功と呼ばれる功法からその全体系が構成されていると言っても過言ではないほどなのではありますが、それは仙道の分野では固精法と呼ばれる極めて重要な功法とされているものでもありながらも、まったく動きのない静功である為に、その静功のみという欠を補う動功的な意味合いを持ったものが王瑞亭師の伝える熱身法というものになるのかと思われなくもありません。


 少林内勁一指禅は偏差の起き難い功法であるともされていますので、その意味から言うとこの功法は教室などに通わずともその基礎的な部分については独習も可能であるとも言え、さらに、その功法体系が站樁功を中心として構成されているという特性からその練功がそれ以外のすべての気功実践の基礎ともなりうるという意味から言えば独習者が学習するのには最適な功法という事ができるのではないでしょうか ( 少林内勁一指禅教室なんかを開催している先生などにそんな事を言ったら “ 正確な姿勢が大切なんだ ” と言って怒られるでしょうし、站樁功以外にも教授を受けなければならない細かい技法もあるわけではありますが・・・ ) 。


 ちなみに、少林内勁一指禅に特化した少林気功情報局というブログでは現在日本国内で少林内勁一指禅の指導をされている方々それぞれの伝系アップ・ライン、即ち相承系譜の詳細を調査されて公開しているようで、少林内勁一指禅について興味を持たれている方には何かと参考になるのではないかと思います( こちらを参照 ) 。



 ところで、羅漢つながりから少林内勁一指禅における羅漢功のことを思い出してこの記事を書こうと思いたち、ネットで検索して羅漢気功について書かれたとある本をネット通販で購入したのですが、・・・、ひさびさに大ハズレを経験してしまいました。


 現実世界リアル・ワールドにおける書店店頭であるならば、購入する前に実際にその本を手にとってパラパラと中をめくってから購入するかどうかを決定しますのでこんな齟齬は起きないのでしょうが、書名のみをたよりに購入した羅漢気功について書かれたというその本は久々の駄本でアングリと開いてしまった口を閉じるのに偉く苦労したものであります。


 気功による施術をなされているというある中国人気功師の方がかつて、気功による施術をしようとした日本人から “ 中国の気功はもう結構、信用できない ” と何度も言われたという趣旨の発言をなされていたというお話を知人から耳にした事があるのです ( その心は、それほど気功治療だの中国気功だのという看板を掲げてのインチキ商売が当時の日本には蔓延していた、という事です ) が、この本の著者などはその典型である可能性を妄想してしまったほどであります


 もちろん、それはまだ妄想の段階なのでその点はご注意していただかなければならないのではありますが、ついそんな妄想をたくましくしてしまうほどにその本の内容はヒドイものだった・・・、という事ですね ( あまりのネガティヴ評価なので実名はあえて伏せることにしておきます ) 。


 anyway・・・、というか閑話休題。

 上にご紹介した 《 熱身法 》 からの 《 馬歩站樁 》 でも構いませんし、ただ普通に 《 馬歩站樁 》 をやっても構いませんのでぜひ皆さんもこの目くるめく ( ・・・、かどうかは定かではないものの ) 気功の世界に一歩足を踏み入れてみては如何でしょうか?


 いずれにしても 《 馬歩站樁 》 は気功法の基本中の基本にはなりますので役には立ちますし、この功法を極めて少林内勁一指禅教室の門を叩けば、やがては羅漢となる羅漢功の秘法を伝授していただける日もくるやも知れません・・・。


 と、まぁ以上、羅漢の気功法についてのお話・・・、でした。