ボボボーボ・ボーボボ第3巻より
「ねぇ、ユウ君の将来の夢ってなに?」
波打ち際に座るパチ美は
恋人ユウ君に問いかけた。
ユウ君はパチ美を優しく見つめると
「Sになることかな」と
恥ずかし気に、でもどこかたくましく語った。
「ハハハおかしいよな
Uのオレがこんなこと言うなんて」
Uの字に曲がった
顔でもなくかといって
胴体でもないそれを
ユウ君は小刻みに揺らしながら笑う。
その姿はとても切ないものだった。
そんなユウ君を見て胸を痛めるパチ美。
愛する人の夢を、どうして応援しないことがあるだろうか。
「ううん、おかしくない!
全然おかしくないよ!」
あわててそう言い放つパチ美の大きな瞳に大粒の涙を見た。
「なれるよ!
ユウ君なら絶対Sになれるよ!」
パチの両手は固く握りしめられていて
それは愛する人を応援する心のあらわれであっただろう。
Sにはなれっこない。
そんなことはユウ君が一番分かっていた
それでもパチ美の気持ちは嬉しいもので、
それとともに将来性の無い自分を憎んだ。
「ありがとう、うれしいよ」
それがユウ君の精一杯の言葉だった。
それ以上の言葉なんていくつもあるだろう、それでもユウ君はそんなありきたりな言葉しか吐けなかった。
パチ美はそれが嬉しかった。
そんな素朴なユウ君を誰よりも愛していた。
─ユウ君…会いたい…
会いたいよ…─
かつての恋人との思い出に浸るパチ美は涙を流し続けた。
本当にヤッ君を愛しているんだろうか、戻れるならばあの日々に戻りたい。
恋人が優しく笑ってくれたあの日々に。
ユウ君の胸の中に…。
「コラァ!
誰だ、人のマグカップに入ってるヤツは!?」
不意に聞き覚えのある声が外から聞こえたきた。
(この声は!)
「ユウ君!」
自分は今ユウ君に怒鳴られたのだ、どことない確信がパチ美を動かした。
ガバとマグカップから身を乗り出したパチ美は目を疑った。
ユウ君…が立っている。
しかしその姿はもはやUの字ではなかった。
数字の6。
それは顔立ちもはっきりとして、
かつてのユウ君を思わせない。
靴も靴下も手袋も当時のままだったのに、顔だけがキリリと冷酷なまでに変貌を遂げていた。
─ユウ君…
数字になったんだ…─
パチ美はそれでも穏やかだった
ユウ君が目の前にいる。
嬉しさに口元を押さえては、涙をぽろぽろと零す。
「6アタック!」
ユウ君がパチ美にダイナミックに体当たりした。
それはパチ美の左半分を捉えた、体のトゲがかすかに振動する。
「ぎゃ!」下品なうめき声をあげ、パチ美は吐血しながら地べたにたたきつけられた。
「キサマ
オレ様の家に土足で入り込むとは
このオレがこのコーヒーカップの守護神6様と知ってのことか?」
ユウ君は6と名乗った。
もはやそれはユウ君ではない別のものへ進化してしまったのかあるいは
ただの他人のそら似だったのか
パチ美は力なく自分の頬をさすった。
「……ユ…ユウ君…」
廻るカップに座るヤッ君。
何も言わずにただ遠くを見ていた。
こうして3人の恋の歯車は
回り始めたのであった…
そう
コーヒーカップのように…