(1)目的

都市化が進んだ地域を流下する河口や閉鎖性海域に発達する干潟では,河川上流や海域から運搬される有機汚泥(ヘドロ)が堆積し,干潟の泥化が進行している.このヘドロ化の進行により浄化能力の低下,生物生息環境の悪化等の水辺環境の悪化を引き起こしている.本研究で開発した地盤改良材を用いてヘドロ干潟に構築する「散策道」(写真-1),「テラス」は,人と水際を結び付けるものである.地盤改良材の主材料は堆積ヘドロと産業廃棄物である石炭灰であり,これらの材料の使用自体が環境負荷低減に繋がるものである.これらの使用法が確立されれば,干潟堆積ヘドロのみならず浚渫ヘドロを有効に行うことができ,浚渫泥処理に莫大な費用を投じる必要性が加速度的に低減される.本研究では,ヘドロを利用した地盤改良材(人の歩行が可能であるが,カニ等の棲息を防げない材料)の力学特性を把握すること,およびこの特性を考慮した地盤改良材の現地施工方法について検討した.

(2)内容

1)土質力学的特性の把握  石炭と生石灰を混合燃焼して発生する石炭灰から作製する石炭灰粉は,CaOを多く含むためにヘドロを混入することで高圧縮性の強度を持つという特性がある.土質試験はヘドロに混合する石炭灰粉の量を変えて,コンシステンシー,最適含水比,一軸圧縮試験を行った.一軸圧縮試験では堆積ヘドロに石炭灰粉を添加・混合して,直径5cm×高さ10cmのモールドに3層に分けて入れ,各層ごとに締め固め・気泡の除去を行い,供試体を作成した.石炭灰粉と堆積ヘドロの配合条件(5537の配合比)と養生条件(期間,湿度)によって変化する一軸圧縮強度,含水比などの物理的性状について考察を行った.さらに,現地河川への適用を考え,石炭灰添加率30%の供試体について3日間気中養生した供試体を水浸または乾湿を繰り返した(6時間周期)条件下での強度,含水比の経時変化を測定した.

2) 現地施工実験  航跡波を受ける河岸において-1に示す条件で地盤改良材を設置し,掃流実験を行った.-2中の,③,④,⑤の改良材は室内で施工・養生を行い,現地に直接設置,②,⑥は現地に直接施工した.航跡波による流れの条件は水位,底面流速(-3)および石膏半球の浸食量によって評価した.石膏半球は一定時間に水の動きによって削り取られた箇所量で把握した.

(3)主要な結論

1) 地盤改良材の力学的特性の評価  対象とするヘドロは10%を越える有機質を含むため,高含水比状態を維持し地耐力を有しないが,石炭灰粉をヘドロに添加することにより,ヘドロは高圧縮性の無機質シルトの特性(含水比の低下と塑性指数の減少)を持つようになる.これによりヘドロは地盤改良材としての特性を有する.改良材の最適含水比は石炭灰粉の混合量とヘドロの有機性状によって変化するが,3040%の範囲にあり,石炭灰粒の乾燥状態で混合することで強度が増大する.添加率50%の供試体が添加率30%に比べて圧縮強度が高く含水比の低下に伴い増加すること.強度発現の一番の要因は乾燥によるもので,乾燥した石炭灰粉を添加することにより初期含水比を低下させ早期に強度を発現できることが明らかにされた.施工直後の水浸によって含水比が上昇するが,一回の水浸によって含水比が安定するため水浸の繰り返しが改良材の流出,崩壊におよぼす影響は小さい.

2) 現地施工実験結果  改良材の強度の発現は養生期間中に化学反応が進んで硬化するのではなく,乾燥によって含水比が低下することによる.被膜網をかけることで長期間,流出を防げることができる(-4).写真-1に示す護岩で囲むことで航跡波を直接受けずに,改良地盤材の流出を回避できる.


広島大学海岸工学研究室