4.大町橋から安川橋の河床改修工法について市民として感じること


(1)安川整備の考え方

 安川は古川と合流後,太田川の感潮域で合流する.安川の水位は3つの流域と海水位に依存しているため,水位の制御は簡単でないことが理解できる.特に上流域の開発により土砂の供給量が多く,古川,太田川との合流部で土砂の堆積が予想される.さらに,太田川の感潮域で合流することから大潮満潮位と河床勾配との関係も重要となる.図3に既往最大水位を記録した20059月の太田川水位(矢口第一,長和久)と古川水位の関係,図4に計画高水位時の水位面を改修前後の河床面とともに示している.図4は「河川の整備の実施に関する事項」5)に記述してある大町橋付近,判安橋付近,組合橋付近,大原中橋付近の断面図から作成した.図3では水位の立ち上がりは古川で早く,太田川での水位上昇時にT.P.+6mの水位付近で変極点を持っていることから古川ではT.P.+6mを超える水位から太田川の水位の影響を受けて始めると考えられる.本整備では古川との合流域における安川の河川改修の方法として流下能力を向上させるため,河積の確保(河床の掘削と護岸の安定)が計画されている.図4から大町橋(5km地点)下流で堰上げが起こることから,合流域での河積の確保は妥当な考え方といえる.

 


本改修では根固めのためカゴマットを使用している.カゴマット内で水が動くこと,河床を安定させること等カゴマットは根固め工として妥当な工法といえるが,河道形状を単調にする等の問題点を有する.



(2)安川の現況

 既にカゴマットの設置が完了した最下流安川大橋辺りは河川勾配1/750で洪水時の流砂はカゴマット上に堆積する傾向にあり,川底とカゴマット部の高低差が大きくなる.植物の着生も速く,繁茂し歩行は困難である.改修が予定されている大町橋から安川橋までの約1.3kmの区間は河川勾配が概ね1/400で緩やかに蛇行し,増水時には流砂の堆積が著しく,寄り洲を形成し,自然環境,景観,親水性は良好な区間である.広島県上安(安川)水位観測所のデータによると平成18年度水防団待機水位1.7mを超えた日は12日であり,河床(水際)の改修にあたっては平水時に適応した工法の選択が望まれる.  

                                                                                           

(3)安川河川改修において市民として感じる河床工法の問題点

a.瀬・淵・洲の保全・再生  カゴマットの設置に因ってこの区間に写真4に示すような以前の州の再生は望めず,単調な流路となった.カゴマットは妥当な工法であるが全ての河道形状に有効とは言えない.




b.景観と親水性の低下  河川改修が予定されている南部山橋周辺(写真2)は安川筋では最も景観の良い場所である.左岸の寄り州は川辺の安東保育園の園児たちが川遊びに利用し,穏やかな水面はカワセミの絶好の餌場となっている.カゴマットを設置するとカゴマット上への土砂の堆積が促進されるとともに,水衝部は洗掘されカゴマット周辺に砂礫の堆積,植物の着生は望めず,流路との高低差がより大きくなると予想される.カゴマットの設置は,水辺への接近が困難にし,単調で情緒のない景観に変貌させる可能性が高い.

c.生物への影響  カモ類は流れのある河川の場合,休息場所として砂地や水面から出た石などが必要である.水際の砂地では蝶が吸水し,シギ・チドリ類の餌場となる.魚・水棲生物には水深,流速に変化が必要である.流路を平坦化,単調にする河床工法は生物の生息環境の縮小を導くことになる.


5.おわりに

春,安川の土手に甘く柔らかいヤブカンゾウの芽が吹き,ツクシが生える頃,カモの北帰行が始まります.温かくなった流れには銀ブナの群れが輝いています.川面の石にはアカミミガメが甲羅干し,マツバウンランが紫の花を風に揺らし,秋には彼岸花が紅く土手を飾ります.何処にでもある風景ですが安川にいつまでもこのありふれた景色が在れば良いなと思っています.子供たちが無邪気に川遊び,土手を行く人が足を止めて川面を見ている.そんな安川が良いなと思います.

平成11年(1999年)6月29日豪雨災害時は古川から奥畑川まで被害状況を見ました.川沿いに永くお住まいの方から安川洪水の怖さをお聞きしました.洪水対策の改修工事は広島県に拠って着々と進められています.安川は普段は優しい川です.もう少し工夫すれば,もう少し私たちが川を思いやれば,川は応えてくれるはずです.これからの川づくり街づくりに私たちの技術と知恵が活かされる事を願います.未来の子供たちのためにも!


参考文献

1) 美しい山河を守る災害復旧基本方針・解説版

2) 環境保全型ブロック擁壁設計要領(広島県)

3)河川改修マニュアル(広島県)

4) 広島市衛研年報25,66-69(2006)

5)河川の整備の実施に関する事項
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/page/1172129474129/index.html


6)安川古川野鳥調査記録1993年~1999年,(安川のかもを守る会)