この論文は2008年の土木学会中国支部発表会で「安川のかもを守る会」の川本さんと一緒に発表したものです.長くなるので,3回に分けて書きます.
1. はじめに
広島市安佐南区を流れる安川は奥畑川と大塚川が合流し古川に注ぐ流路延長14.9kmの一級河川である.安川のBODは年平均値5.0mg/ℓで県内有数の汚濁河川であったが,下水道が普及することで(人口普及率92.5%),水質は改善されている.洪水対策として昭和17年から平成4年にかけて一次改修(超過確立1/30)が行われたが,急速な宅地開発,人口の増加に伴い平成4年度(1992年)から二次改修(超過確立1/50)が行われている.平成4年度からは河床を掘り下げ,河道断面を拡張する洪水対策を主目的とした改修工事(基本高水450 m3/s)が行われている.本報告では安川の自然を保全すること,周辺の安全を守ることをどのように両立させていくかについて,南部山橋の上下流(右岸735m,左岸463m)の護岸の改修および大町橋から安川橋まで約1.3㎞の河床改修を検証するための基礎事項を検討する.
2.安川の概要
(1)流域の特性 流域は広島市街の北西部に位置し,流域面積53.5km2,年平均降水量1810mm (2001年~2005年) 4),南側に火山(488m),武田山(411m),北側に荒谷山(631m),権現山(397m)があり中央を安川が流れる(図1).流域は大半が山麓緩斜面で,地質的には主に風化した花崗岩で形成されている.1965年頃から中流域の山麓に大規模な宅地開発が行われた.上流域では西風新都計画が実施され流域の約4割が市街地となっている.
(2)安川の自然
安川は両岸に市道,沿線にアストラムラインが通り,自動車,人の往来が激しい市街河川であるが,水辺にはカワセミ,コサギ,ダイサギ,アオサギ,セキレイ,イカルチドリ,イソシギ等が採餌,休息する.冬季はマガモ,ヒドリガモ,コガモ等冬鳥が越冬する市街地にあって希少な野鳥観察地域である.水生生物は昆虫,アカミミガメ,スッポン,モズクガニ,ナマズ,ギンブナ,コイ,オイカワ,ヨシノボリ,カワムツ等が生息する.川土手にはツクシ,セイヨウタンポポ,ツルヨシ,ヤブカンゾウ,センニンソウ,ガガイモ,クコ,クララ,イタチハギ,ヨメナ,マルバルコウソウ,チガヤ等200余種の野草(外来種含む)が見られる.
(3)安川での環境教育
安佐南区の人口22万2千人,その約半数が安川流域に居住する.周辺には幼稚園,小,中,高等学校,大学など多くの教育施設があり体験学習の場として安川が利用されている(写真1).
南部山橋周辺(大町橋~安川橋区間のほぼ中央)は川筋が蛇行し,寄り洲が交互にあり,川底は砂粒と石(10数cm)が混ざり合った河床である.水深は30~40cm程度で水棲生物の観察,採取など学習活動や川遊びには良好な場所と言える.地域住人も散策,野草の採取,など憩いの場所として利用し,市街地にあって自然と触れ合える貴重なオープンスペースである.