例会~会員の話を聞こう   2019.3.8例会

 

私は小児科の医師として総合病院に勤務(岡山済生会総合病院

・小児科診療部長)しています。

 

今日は“子供の成長”ということでお話をします。3年前の4月より学校健診の内容が大きく変わりました。それまでは座高を測ったり、検便によって寄生虫の検査も行っていましたがこれらが無くなりました。これに代わって、運動器にかんする健診と成長曲線の導入です。

 

子供の身長と体重を年々入力し成長過程を検証するものです。一人ひとりのデータをパソコンに入力すると対象児の身長、体重の推移が示されます。併せてグラフには集団の中での代表的なパーセンタイル値(7本:97,90,75,50,25,10,3:100のうち上から何番目かを示している)の位置も示され、集団の中での対象児の成長過程がどの位置にあるか解りやすく示されます【別紙参照】。例えば実績が97パーセンタイル値を示すグラフ線と同じ位置ならば100人いたら上から3番目に身長が高いと判断できます。一人ひとりの示されたグラフ(推移)の形を見ると注意を要する子どもたちを簡単にピックアップすることができます。

このグラフには医療現場で使っている標準偏差で示されるタイプ(7本のグラフ:+2.0SD,+1.0SD,0(平均),-1.0SD,-2.0SD,+2.5SD,-3.0SD )と、パーセンタイル値で示されるタイプの2種類があります。教育現場ではパーセンタイル値で表現したグラフが選ばれております。こちらの方が分かりやすい、教育現場ではプラス表示の方が望ましいということだろうと思われます。

 

急に身長が伸びた子供、急に身長が伸びなくなった子供に注目する必要があります。1年に3 cm 伸びたとしてもグラフの形状でこの年代はしっかり伸びる時期ならばやはり3 cm 伸びただけでは伸びがおかしいと判断されます。原因はいろいろ考えられます。まず甲状腺機能低下症などで身長が伸びなくなっているのではと心配されます。この病気は適切に対処すれば治りますので早期発見が有効です。脳の腫瘍が原因というケースも考えられ、この場合には成長ホルモンの分泌が悪くなり身長が伸びなくなるという現象を引き起こします。

 

急速に身長が伸び出す場合もあります。この場合注意しないといけないのは「よく伸びたな」と言っているうちに急に途中から伸びが止まってしまい小柄なまま成人してしまうことで、この時点では治療のしようがありません。思春期早発症(思春期が早くきて成長が2年~3年程度早く始まるもので、早期に体が完成してしまうために、一時的に身長が伸びた後小柄なままで身長が止まってしまう)という病気が疑われます。

 

身長は赤ちゃんの時が一番伸びます。1年間で25cm ぐらい伸びます。思春期の男子なら3年間で25cm 伸びるのが平均的な姿であります。赤ちゃんの時に一番伸びて1歳から3歳まで伸び方が急速に低下し、3歳から思春期までは伸び方は少しずつ少なくなります。そして思春期にまた大きく伸びるのです。普通なら3歳から思春期までに急に伸びることはありません。この時期に大きく伸びたりすると問題があることが多くなります。思春期が早く来ているケースが多くなります。それがわかると対処もしやすく、状況に応じて思春期を遅らせたり、場合によっては一気に早めてしまうということで対処します。   

 

また学校健診以外にも、親が子供の身長の伸びに疑問を持って相談に来られることもあります。色々とお聞きして相談にのっています。そのような時に多く言われることは、「家庭でできることは何かないでしょうか」ということです。「身長を伸ばすようなサプリメントはありませんか。」 「牛乳を飲ました方がいいんでしょうか。」「しっかり寝るほうがいいんですよね」という相談が多くあります。サプリメントで言いますとロート製薬が販売している「セノビック」というサプリがあります。名前だけでも背が伸びそうでございますが、これを飲めばいいのかどうかは明確に答えられるものではありません。こういう種類の薬はやはりカルシウムを多く取るというサプリメントになり、その原料には貝殻が多く使われています。貝殻は近海の陸に近いところのものを集めることになり、海の汚染を反映し環境ホルモンを含んでしまうことも心配されます。そういった原料のカルシウムを常用してよいのかどうか考えるところであります。またアフリカの実証実験のデータではありますがカルシウムを補充した人と、補充しない人との違いを分析した実験があります。その結果では16歳時点では補充した人の方が2cm ほど身長が高かったということでしたが、20歳台になると補充した人の身長が2cm低かったという実験データもあるようです。

 

昔、巨人の星という少年向け漫画がありました。主人公の星飛雄馬はコースを狙い速球を投げることができるが、身体が小さいため球が軽いというのが特徴でした。彼の身長を推計すると157cm ぐらいと思います。なぜ身長が低いのかと考えてみた時に、大リーグボール養成ギプスというような体を鍛えるギプスをはめていました。これで筋肉ムキムキの小学校4年生が誕生したわけですが、このような筋トレで筋肉がつくのは男性ホルモンの働きによります。つまり彼は元々思春期早発症でありこれが低身長の原因となっていると想像できるのです。以上、子供の成長についてお話をしました。