昨日、ちょっとしたことで、ある調律師さんとお話する機会があった。
この方は長年、コンサートホールの調律を多く手がけて来られたのだが、
面白いことに、クラシックのピアノ音楽そのものには昔からほとんど趣味がなく、
演奏家の名前もその場限りですぐに忘れてしまう、とのことだった。
昔から、「音」というものに並々ならぬ関心があったために、この世界に入られたが、
ピアニストや曲の内容に興味を持ったことはほとんどなかったのだそうだ。
それが昨年本当に久しぶりに、音楽自体に強く引きつけられるピアノ演奏に出会った、
と、その調律師さんは仰った。
このときは、その演奏会の調律を担当なさった関係で、
引き続きリハーサル時も、音の具合を知るために演奏を聴いていらしたそうなのだが、
そのピアニストが弾き始めると、次第次第に「これは何なんだ!」と
奏でられる音楽の中へと誘い込まれ、我知らず音楽の語るものに聴き入ってしまった、
ということだった。
それは、この世にこんな音があったかと思うほどのピアノ演奏で、
根本から魂を揺さぶられるような感動を覚え、深く深く打たれた、と……。
「僕、あんなピアノはホントに今まで聞いたことがなかった」
調律師さんの仰る演奏曲目と演奏会のおよその時期から、
「もしかしてそれは、アブデル・ラーマン・エル=バシャですか」
と私が言ったら、
「そう!!!エル=バシャ!!!その人!!!」
と果たして即座に肯定された。
「そう、レバノンの人!凄いピアニストだねあの人は。本当にびっくりしたよ」
さらに、私にとって興味深かったのは、この調律師さんが、
「昨年もうひとり印象に残ったピアニストはシプリアン・カツァリスだった」
と仰ったことだった。
こちらのほうは、珍しく(笑)ご自身で名前を記憶していらした。
「僕、あの人好きだよ。遊び心があって、楽しくて、大きな演奏だった。」
期せずして私の趣味を大いに肯定された結果となり、私は自信を深めた(^_^;。
勿論、このかたは、私がどのくらいピアノを聴くかなどご存じなかったし、
私がエル=バシャやカツァリスを気に入っていることなど、
予想もしていらっしゃらなかったことは間違いなかった。
イーヴォ・ポゴレリチなど、試しに私から名前を言ってみたが、
「ごめんね。わからない。悪気ないんだけど、僕、本当に覚えが良くないから」
という返答だった(爆)。