♪雪が降~る~ | 転妻よしこの道楽日記

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立春というのに、気温が下がって、寒い。
こんな日には、実家で、昔、天気予報より「父のアカギレ」のほうが
よほど信頼されていた、ということを思い出してしまう。

「やれ今晩は足が痛いど」と父が言ったら、
それは今夜から明朝にかけて、氷点下になるという印だった。
母はそういう晩には、水道から水をタラーっと出して寝たものだ。
ぽたぽた、という出し方では、朝までに凍ってしまうし、
かと言って、ザーと出しっぱなしにするのでは、
水が勿体ないし水道代も高くつくので、
細く、しかし決して途切れないように、タラーっと出しておくのだ。
こうすると、夜中に気温が下がっても、
水道管が凍結・破裂、という惨事を免れることができるのだった。

そんな日は、暗くなる頃から雪が黙って降り始めることがよくあった。
田舎では日が落ちると皆、全く外に出ないから、無音に近いのだが、
それでもほんの時折、外を通る車が、ダッダッダッダッダ、
とチェーンの音を響かせてゆっくり行き過ぎていくから、
家の中にいても、「降りよるな」とわかるのだった。

雪の積もった朝は、普段より一時間は早く家を出たものだ。
特に高校の頃はバス通学だったので、
路面の凍結のために徐行運転されると遅刻してしまうので参った。
あるときなど、途中でバスを捨てて、学校まで小走りに走ったが、
降り続ける雪にヤられて、着いた頃にはスカートが「裾模様」だった。
「こんなジトジトなもんを一日中はいとれんわ」
とばかり、友人と私は被服教室に侵入し、
スカートに勝手にアイロンをかけていたら、先生に見つかって叱られた。

雪がやんで太陽が出たら、今度は、積もった雪が溶け始める番だった。
家にいると、よく、なんの前触れもなく頭上から、
ズドドドドドズドドドドド・・・・と地響きのような音がして、
ズザザーーーー!!と、屋根の雪が、軒下へと落下するのが、
窓越しに見えたものだった。
猫なんかが外にいて直撃を受けたりしないだろうか、
と心配したが、どういうものか、ミーコちゃんもチー子も、
そんなメに遭ったことは一度もなかった。

また、学校の校庭には、日当たりの悪い場所があったりして、
そういうところにだけ、雪が、いつまでも残っていた。
私たちはそれを「根雪」と呼んでいた。
3月1日の高校卒業式の頃までは、結構、「根雪」がまだあった。



・・・というような経験は、広島なら、大なり小なり普通のことだと、
かなりオトナになるまで、私は思い込んでいた。
自分の村が、例えば広島駅界隈より寒いというのは自覚があったが、
それでも、雪国でなく、かつ都心部でない、という程度の地域には、
あのくらいの雪は、毎年降っているものだろうと思っていた。
また、広島なんだから(?)東京より寒いのは当然だ、
みたいな認識も、私には、長い間、あった。
町の規模が小さいほど、年間平均気温も低いに違いない、という、
緯度や標高や海流を度外視した感覚が、当時の私にはあった。

大学の頃、「広島から来たんだったら、東京は寒いでしょう」
と下宿の大家さんに言われて、全然意味がわからなかった。
世間の「瀬戸内」のイメージが、私の村の実情とは違う、
と知ったのは、二十歳を過ぎてからのことで、
更に、広島市街地の別世界ぶりは、私の想像を遙かに超えたものだったと
初めて知ったのは、結婚してからだった。
「アカギレ予報」も「水道管破裂」も「ズドドド」も「根雪」も、
何ひとつ経験がない・知らない、
と旧市内育ちの主人に呆れられたときには、
本当に、とても驚いたものだった。