主人は出勤前に近所のスポーツクラブで一泳ぎするのが日課で、
今朝も、いつものように、支度して玄関のドアを開けたら、
いきなり空の彼方から、ぶーーーん、と一匹のセミが飛んできた。
転妻「あ」
転夫「おっ!?」
何を思ったのか、セミはまっすぐ主人に突進し、
胸の近くに当たったような物音ののち、消えた。
転夫「あれれ?当たったと思たが?家に、入った?」
転妻「………いや?中には、居ないみたいよ?」
転夫「どっか落ちたんかな???」
不思議なことに、セミは忽然と消えて、もうどこにも居なかった。
わーい。セミの幽霊?なんちって。
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一時間後、主人が帰宅して、言うことには。
家を出て、スポーツクラブへと、自転車を漕いでいたら、
どうも、近いところから、「ジジっ、ジジっ!」と音がする。
なんの音かな、自転車が調子悪いのかな、と見下ろしたら、
なななんと。
さきほどのセミが、主人のジーパンの左のもものあたりに、
止まっていたのだった。
私ならすぐつまんでどこかに離してやるところだが、
街っ子の主人には、そんな芸当はできなかった。
「触るの怖いし、まあ自転車こぎよったら、そのうち、
どっか飛んで行くかなと思って」
主人は左もも付近にセミをつけたまま、
さらに、スポーツクラブへの道を進んだ。
しばらくして、もうヨソへ行ったかな、声もしないし、
とまた見下ろそうとしたら、
「うわあああああ!!!」
主人はもう少しで自転車から転げ落ちるところだった。
なんとなんと、セミは、じわりじわりと登ってきたらしく、
主人の胸の、左ポケットのところまで来ていた。
主人は、セミと、目が、合ってしまった。
さすがの主人もこれには耐え難く、必死で振り払ったら、
セミは飛び上がり、今度は主人の後頭部に止まろうとしたそうだ。
「ひいいいいい~ん!!!」
主人は半泣きで、爆走自転車で、スポーツクラブに駆け込んだ。
帰宅してもまだ、後ろクビにまとわりつくセミの感触が取れない、
と主人は青ざめていた。