「あれで婿の来てがあるのかい」
世間の噂は厳しい。自然に婚期も遅れがち。

お久は駕籠屋の一人娘。持って生まれた気性と育ちでそうなった。与太者の一人や二人は歯牙にもかけない。
「女相手に刃物がいるのかい。家には何人でも男がいるんだ。何時だっていいからかかってきな」と啖呵を切る。

両親に代わって店を仕切っていた。そんなお久にも思い人があった。幼馴染の船宿の若旦那の長吉。陸の駕籠屋と水の船宿。相性はいいのだが跡取り同士。

「お久さん、花火の日には一緒に船から見ないかい」と長吉。
「稼ぎ時というのに暇なことを言うね」と言ってしまうお久。
こういったことはお互いの両親にもとっくに分かっているもので、花火を見にお久は無理やり長吉の船に乗せられた。
「いよっ、そこのご両人」などと囃されると悪い気はしない。

「駕籠屋って商売も大変だろうね。しかしね、両親が元気な内は私みたいに遊んでいなさいよ。二親にみんなまかしてしまうというのも親孝行なんだよ」と長吉。
「だけど私達はどうなんだい。永遠にこのまんまさ」とお久。
「駕籠屋は船宿に繋がっているんだよ」と長吉。
「逆に水と油かもね」と言ってしまうお久。

両親同士は話し合った。取替えばや。長吉を駕籠屋に、お久を船宿に入れ替えさせた。そこで初めて分かった。お久が泳げない! たったそれだけのことで今まで突っ張っていた。

「別に構うことではないが、私が何とかしましょう」と長吉。
船で沖へ出て、お久に綱を付けて海に投げ込み、泳げるようにした。しかしお久は船宿の若女将というより船頭達の差配になってしまった。


                                               (Feb.14,2005)

 
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