名馬の青とともに忠助をスカウトした高級武士らしきは側用人の青山源之丞と分かった。
「忠助、大儀」と時々声をかけてくれる。忠助に二人目の子供ができた頃に青は腹を悪くして死んだ。

それから忠助は馬医者以上の知識を得ようと勉強した。書物に学んで厩舎の馬々の健康管理に勉めた。青の死が「無事これ名馬」の思いを強くした。その頃元々家格が高かった青山源之丞は若くして一気に国家老になった。忠助は加増された。
「馬医者以上との噂もある。よくぞ学んだ」が上司から伝えられた言葉。

殿様が国許におられる限り忠助は殿様の轡(くつわ)を取り続けた。殿様は相変わらずのおしゃべり。適当に相槌を打つ忠助と馬とのリズムが合うのだろう。しかし殿様は重臣達の悪口や幕府のご政道の批判までおしゃべりになる。

忠助に聞きに来る者もあった。しかし忠助は頑固に聞いたことを一切話さなかった。殿様は時として「どう思うか」と忠助の意見を求める。忠助も困るが「私が如き下賤の身には分かりません」とはっきり述べた。

側用人から国家老になった青山源之丞は、この殿様の欠点を小姓組のときから嫌という程経験していた。特に今度江戸表に赴かれるときには、国家老なのでもう付いては行けない。この殿様はどういう性格かおしゃべりした後はすっきりして悪意はない。しかしこのために傷つく人も出るし、幕府への聞こえも悪い。

青山源之丞は腹を括った。馬場に殿様とともに現れて二頭を並べて乗った。殿様は又重臣達の悪口やご政道批判。「忠助、どう思うか」と聞かれた。
「忠助、今日は侍として思うままを述べよ」と横から国家老。
忠助も腹を括って言った「殿様、恐れながら、一度吐いた唾は飲み込めないとも申します」
殿様は怒った「下賤の身で何と生意気な奴、無礼討ちにしてくれる」

「殿、私めが忠助に侍として言わせたのです。今まで忠助が他言していたら殿の名誉はどうなっていますか。私めはこれからは江戸表に付いて行けません。もう誰も殿の名誉を守ってくれる忠義の者はいなくなります。今日を限りにお言葉を慎みになられるように」


                                               (Mar.20,2005)

 
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